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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2025年5月号 ( Vol. 18, No. 2 )
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目次:日本データベース学会受賞特集号
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1. 日本データベース学会功労賞
1-1. 日本データベース学会功労賞を受賞して ~ウェルビーイングを考える~
飯沢 篤志(AIZWAND-U)
2. 日本データベース学会若手功績賞
2-1. 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜振り返り〜
山口 晃広(株式会社東芝/九州大学)
2-2. 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜「データにならざるもの」に光をあてるために〜
松原 正樹(筑波大学)
2-3. ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜焦燥と打破〜
北島 信哉(富士通株式会社)
2-4. ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜社会まるごとデータベース〜
榎 美紀(日本アイ・ビー・エム株式会社)
2-5. ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティの学際性〜
吉田 光男(筑波大学)
2-6. ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜データベースを軸に、分野の壁を越えて〜
劉 健全(NEC)
3. 日本データベース学会上林奨励賞
3-1. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜行雲流水〜
高木 駿(LINEヤフー株式会社)
3-2. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜他分野からの挑戦〜
小幡 紘平(大阪大学)
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■1■ 日本データベース学会功労賞
日本データベース学会功労賞は、我が国のデータベース、メディアコンテンツ、情報
マネージメント、ソーシャルコンピューティングに関する科学・技術の振興をはかり、
もって学術、文化、ならびに産業の発展に大いに寄与された日本データベース学会の
会員の功労を賞するためのものです。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会功労賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_02
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■1−1■ 日本データベース学会功労賞を受賞して ~ウェルビーイングを考える~
飯沢 篤志(AIZWAND-U)
このたび、2024年度の日本データベース学会功労賞を受賞した。1982年にリコーに入社
して以来、データベース管理システムの研究開発に携わってきた。1990年代後半には、
デジタル放送の活用を目指す次世代情報放送システム研究所に兼務出向し、その頃から
DBS研やDE研の研究会に頻繁に参加するとともに、学会の運営にも関わるようになった。
今回の受賞は、2002年の日本データベース学会設立当初から、その運営に継続的に関わっ
てきたことを評価されたものと受け止めている。これまで、DEWS、DEIM、DBWebなど、
さまざまな研究会やフォーラムの企画・運営を支援してきたが、こうした活動は、日々
すばらしい研究に取り組み、成果を発表してこられた多くの研究者によって支えられて
きた。データベースコミュニティの発展は、まさにそのような皆さんの努力の積み重ねに
よるものであり、今回の受賞もそうした活動の一部を担ってきたことへの評価と感じて
いる。心より感謝申し上げたい。
3月4日の授賞記念講演では、「ウェルビーイング」をテーマとした。研究者が心身の健康
を保ちながら、どのようにすれば研究を長く続けられるか。そして、研究とウェルビー
イングの関係を考えることが、自らの研究の方向性を見直すきっかけになるのではない
かという考察をお伝えした。
研究者という職業は、ウェルビーイングの5要素「PERMA」と非常に親和性が高い。たとえ
ば、やりたい研究を続けることは前向きな感情(P)を生み出し、研究に没頭することは
充実した時間(E)につながる。仲間とのディスカッションや共同研究を通じて良好な
人間関係(R)が育まれ、社会への貢献を意識することは人生の意義(M)の自覚につな
がる。そして、新たな知見を創出することによって、達成感(A)を味わうことができる。
もっとも、実際の研究活動には、体調管理や働き方のバランス、報酬や研究費の確保
など、現実的な課題も少なくない。私自身、40年以上にわたる会社生活を振り返ると、
「好きなことをやる(あるいは、やることを好きになる)」「すぐにあきらめずに続ける」
といった心構えが、ウェルビーイングを保つうえで重要だったと感じている。研究生活
においても、同じことが言えるのではないだろうか。
我々が関わるデータベースやデータ工学の分野は、研究そのものがウェルビーイングの
向上に直接貢献するテーマもあれば、間接的にウェルビーイング関連研究を支える形で
貢献できるテーマも多い。自分の研究が直接貢献しているのであれば、貢献の幅を広げる
視点で新たな課題が見えてくるかもしれない。間接的な貢献であっても、応用可能な
新たな領域を見つけることで、研究の展開が期待できる。ウェルビーイングとの関係を
あらためて考え直してみることで、自分の研究の位置づけを見直し、新たな展望を得る
機会になると考えている。ぜひ一度、立ち止まって考えてみてほしい。
DBSJでは、2012年から監事を4年、副会長として総務・財務担当を6年務めた後、理事を
経て、現在は事務局の一員として活動している。これからも事務局として研究活動推進の
一助となるよう努めるとともに、自らの関心ある分野について研究を続けていきたいと
考えている。
著者:飯沢篤志(いいざわあつし):個人事業主AIZWAND-U。
1980年東京大学理学部情報科学科卒。1982年東京大学大学院理学系研究科情報科学専門課
程修士課程修了。1985年株式会社リコー入社。2017年リコーITソリューションズ株式会社
出向。2023年より現職。2025年より一般社団法人俯瞰工学研究所 主任研究員。関心領域
は データベース管理システム, マルチメディアシステム、デジタルアーカイブ等。日本
データベース学会、情報処理学会、電子情報通信学会、ACM、IEEE、アート・ドキュメン
テーション学会等 各会員.
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■2■ 日本データベース学会若手功績賞
日本データベース学会若手功績賞は、本会の活動に多大なる貢献をしてきた若手会員を
賞するもので、本会の対象とする研究分野において優れた実績を有する場合もその対象
となります。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会若手功績賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_03
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■2−1■ 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜振り返り〜
山口 晃広(株式会社東芝/九州大学)
若手功績賞という大変栄誉ある賞をいただき、大変光栄に嬉しく存じます。これまでご
指導くださった先生方、データベースコミュニティの皆様に心より感謝いたします。
データベースコミュニティでの活動は、東芝に就職して2011年から4年間、名古屋大学に
研究員として出向した時から始まりました。現在の専門分野とは異なり当時は、自動運転
や安全運転支援を主なアプリケーションとして、自動車のセンサデータをリアルタイムに
管理/処理するデータストリーム管理システムの研究開発に携わっていました。論文を
書いてみたいという気持ちと研究者に漠然とした憧がある中、WebDB Forum 2011で初の
論文発表を行いましたが、コミュニティメンバの発表やそれに対するコメント、発表後も
続く熱心な議論に圧倒されたことを思い出します。その後、要領の悪い私に対して懇切
丁寧に何度もご指導いただいたこと、大変感謝しております。この強力なご支援から、
データベース分野の難関国際会議(IEEE ICDE 2015)に論文が採択され、これが後に
WebDB Forum 2016最優秀論文賞や2017年度情報処理学会論文誌データベース優秀論文賞に
繋がりました。
東芝に帰任してからは、インフラ・製造分野の設備診断を主なアプリケーションとして、
解釈可能な時系列データマイニング技術の研究開発に従事しています。現場の専門家が
センサデータに現れる波形を解釈することで設備異常の原因を確認していることに着目し、
AIの判定根拠となる局所的な波形パターン(shapelets)を機械学習で特定する技術を
主に研究開発してきました。例えば、このような産業分野では、異常の見逃しと誤検出率
のリスクがアプリケーションによって異ります。そのため、ユーザが指定した見逃し率
(あるいは誤検出率)の範囲で分類性能を最適化するようにshapeletsを学習する技術を
提案し、これがBest of SIAM Data Mining 2020に選出され、この内容をDEIM 2020でも
発表し2020年度山下記念研究賞に繋がりました。その後もshapeletsを学習する様々な
技術を継続して提案し難関国際会議やDEIMで発表しています。
最近では、shapeletsとは異なるアプローチで、XAIの一分野である反事実説明に基づき、
解釈可能な波形パターン(反事実波形)を生成する技術の研究開発を開始しました。
また、九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所にも所属し、専門分野に限らず
数理技術と事業課題を結び付けることも目指しています。
振り返ってみると、データベースコミュニティには、これまでの自分を育てていただき
恩恵を受けるばかりで、本当に貢献できているのか!?と思うところばかりですが、これ
からも研究開発に精進していくとともに、データベースコミュニティに少しでも貢献
できるように活動していきたいと思います。
著者:山口 晃広(株式会社東芝/九州大学)
2006年 株式会社東芝入社。2018年 名古屋大学大学院 情報科学研究科 情報システム学
専攻 博士後期課程修了、博士(情報科学)。現在では、インフラ・製造分野を応用先とし
時系列データを用いた説明性の高い機械学習・データマイニング技術の研究開発に従事。
株式会社東芝 総合研究所 エキスパート 及び 九州大学 マス・フォア・インダストリ
研究所 教授。
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■2−2■ 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜「データにならざるもの」に光をあてるために〜
松原 正樹(筑波大学)
このたびは、日本データベース学会若手功績賞という栄えある賞を賜り、心より御礼申し
上げます。ご推薦くださった先生方、そしてあたたかく迎え入れてくださったデータベース
コミュニティの皆さまに、あらためて深く感謝申し上げます。
私は現在、身体性認知科学や教育人間学といった周辺領域で研究を進めており、データ
ベース領域とは主に感性データ工学を通じて接点を持っています。こうした異なる背景を
もつ研究者である私が、このたびのような賞をいただけることに、大きな驚きとともに
深い感慨を抱いています。学会の運営や編集委員としてご一緒させていただいた頃から
現在に至るまで、日本データベース学会が育んできた学際性の広がり、そして異なる視点
に開かれた姿勢に、あらためて敬意を表します。
近年、ビッグデータやAIの発展により、データ工学の重要性は多様な分野でますます
高まっています。ただし、データの「量」だけでなく、「質」や「意味」をどう捉えるか
という課題に直面する中で、私はむしろ「データにならざるもの」、すなわち今の技術で
はうまく取り出せない身体感覚、美意識、感性の側面にこそ、次なる問いがあると考えて
います。たとえば、古武術や舞踊、伝統芸能などの身体技法の修練においては、数値化や
言語化が難しい「微細な違い」や「場の気配」に応じて、即興的かつ繊細な判断と行為が
求められます。こうした営みには、データとしてはまだ十分に形式化されていないものの、
確かに「知覚され、共有され、継承されている何か」が息づいています。
認知科学の分野においても、従来の情報処理モデル(いわゆる認知主義)を超えて、人間
の知覚や思考は「身体化された行為の中で動的に生成される」とする「4E認知」
(Embodied, Embedded, Enacted, Extended Cognition)の視点が注目を集めています。
この立場に立てば、世界は静的に存在する情報の集積ではなく、私たちの行為を通じて
意味づけられ、常に再構成されてゆく「流れの中の関係性」として経験されるものとなり
ます。こうした動的かつ生成的なプロセスは、一見するとデータベース的な視点とは
異なるものに見えるかもしれませんが、私はむしろ両者は補完的であると考えています。
人間の営みの多くは、テストによる評価や行動ログといった記録だけでは捉えきれるもの
ではありません。一人の人間をとっても、数十兆の細胞が相互に作用し、内受容感覚や
情動、意識の変容といった多層的なプロセスが、複雑に絡み合っています。私たちが
「データ」として扱っているのは、そうした全体の中から抽出された、わずかな断片に
すぎません。この事実を謙虚に受け止めながらも、データベース研究がもたらす知見は、
こうした未分化で複雑な領域に対しても、有効に働き得ると私は考えています。すなわち、
「何をデータと見なし、いかに構造化し、どのような文脈のもとで意味を抽出するか」と
いった問いかけそのものが、「データにならざるもの」に光をあて、私たち自身の認識や
思考の枠組みを、あらためて問い直す契機となりうるのではないでしょうか。
今回の賞は、複数の分野を横断しながら学際的な探求を志す私にとって、大きな意味を
持つものでした。このような温かな評価は、何よりの励みになります。日本データベース
学会が今後も分野の垣根を越えて隣接領域とつながり合い、互いに学び合いながら発展し
ていくことを、私は確信しています。そしてその広がりの一端を、微力ながら担えるよう、
今後も研鑽を重ねてまいります。
今後ともどうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
著者:松原 正樹 (筑波大学)
2013年慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。
筑波大学図書館情報メディア系特任助教、助教、仏CNRS客員研究員を経て、2021年より准教授。
身体知性や感性データ工学の研究に従事。日本データベース学会、情報処理学会、人工
知能学会、日本認知科学会、日本質的心理学会、芸術科学会、各会員。
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■2−3■ ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜焦燥と打破〜
北島 信哉(富士通株式会社)
このたびは⽇本データベース学会若⼿功績賞という栄誉ある賞をいただき、大変うれしく
思います。これまでご指導いただいた方々、ご推薦いただいた方々をはじめ、皆様に感謝
申し上げます。
思い返すと、学生の頃にデータベースコミュニティで研究活動を始め、コミュニティの中
で多くの先生方にご指導いただきながら研究を進めることの楽しさを知りました。沖縄で
開催されたDEWS 2006(DEWSはDEIMの前身)に参加した頃はまだ右も左も分からない未熟
な学生で、肌寒い中、近くの海辺を散策したことだけを今でも覚えています。
就職後も研究を続けたいという思いで、2009年に研究職として株式会社富士通研究所に
入社しました。しかし、クラウドコンピューティングが流行り始めた時期でもあり、研究
テーマは徐々にデータベースコミュニティから離れ、学会活動もままならず、焦燥感を
覚える日々でした。
このままではいけない、なんとかしなければ、と思った私は、クラウドコンピューティング
からの流れでマイクロサービス・アーキテクチャに関する研究をしていた頃、クラウド
コンピューティングとデータ工学をうまく結びつけた研究テーマを立案し、飛騨高山で
開催されたDEIM 2017での発表までこぎつけました。この研究テーマはその後、日本
データベース学会の論文誌や国際会議でも採録され、自身の大きな成長にも繋がりました。
このときの努力が奏功したのか、以降はDEIMやWebDB Forumの運営委員や幹事としてお声
がけいただけるようになり、結果として今回の受賞に繋がったと考えております。
近年は、偽情報検知技術に関する研究に注力しています。これはまさにデータ工学の知見
が活かせる研究テーマであり、WebDB 2024では「偽情報対策技術」というオーガナイズド
セッションも提案させていただきました。多くの方々との議論を通じて、我々の研究を
さらに洗練させるとともに、データベースコミュニティの活性化にも寄与していきたいと
思っております。
学会運営に携わるようになり、またコロナ禍を経験して痛感したのは、多くの人が集まっ
て会話・議論できる場の重要性です。ご多忙の中、そのような場を提供してくださっている
データベースコミュニティの皆様に感謝するとともに、微力ながらその一助となれるよう、
今後も学会活動に尽力していきます。今後ともよろしくお願いいたします。
著者:北島 信哉(富士通株式会社)
2009年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。同年株式会社
富士通研究所(現:富士通株式会社)入社。サービス運用管理、偽情報検知技術等の研究
に従事。DEIM産学連携副委員長・イベント担当委員、WebDB産学連携担当幹事・ローカル
担当幹事、IEICEデータ工学特集号編集委員などを歴任。
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■2−4■ ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜社会まるごとデータベース〜
榎 美紀(日本アイ・ビー・エム株式会社)
このたびは学会若手功績賞という素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
これまでご指導いただいた方々をはじめ、データベースコミュニティの皆様に心より感謝
申し上げます。
かつて、大学院に進学するからには学会で研究発表したいと思い、DBWSやDEWSに参加させ
ていただいたことを懐かしく思い出します。指導教官の増永良文先生が楽しそうにデータ
ベースの話をしていた姿が印象的でしたし、DB漫才で大笑いしたり、イベントで踊って
みたり、イベントの記憶ばかりが鮮明です…。
卒業後は日本IBMの東京基礎研究所で働き始め、国内の学会活動から少し遠ざかっていま
したが、社会人として博士課程に入ってからは学会との関わりが復活しました。博士号
取得後は運営にも携わらせていただくようになり、DBSJ理事としてもデータ利活用セミナー
を開催する立場になるなど、多くの経験を積ませていただいています。
会社にいると社内の人しか知り合いが増えないことが多いですが、学会を通じて企業
研究員や大学の先生方などと交流できることは本当に貴重だと感じています。
現在はテクニカルアーキテクトとしてお客様に最先端の技術を届ける仕事をしていますが、
研究最前線の話やデータの法的な扱い方、データガバナンスの考え方など、データベース
コミュニティの活動を通して得られる知識は研究職以外の場面でも非常に大切で、役立って
います。
今後も学会活動を通じて多くの方々と関わり、学び続けると共に、コミュニティへ貢献
していきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
(この文章はChatGPTで添削してもらいました)
著者:榎 美紀(日本アイ・ビー・エム株式会社)
2007年 お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。同年日本アイ・ビー・エム株式会社
東京基礎研究所に入社。データベースやJava Webアプリケーションのデータアクセス高速
化、ソーシャルメディア分析の研究に従事。社会人博士として同大学大学院に入学、2016年
3月博士(理学)を取得。お茶の水女子大学、中央大学非常勤講師。
DE研専門委員、WebDB Forumローカル幹事/プログラム委員、DBSJ理事(主にセミナー委員/
産学連携)などを歴任
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■2−5■ ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティの学際性〜
吉田 光男(筑波大学)
このたびは、日本データベース学会若手功績賞という大変光栄な賞を賜り、心より御礼
申し上げます。これまで支えてくださった皆さまに深く感謝するとともに、本賞が示す
期待に応えるべく、これからも研究活動に一層精進してまいりたいと存じます。
私が初めて学会発表を経験したのは、2009年3月、静岡県掛川市のヤマハリゾートつま恋
で開催された「第1回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM2009)」
でした。当時、自然言語処理を専門とする研究室に所属していた私は、研究室から一人で
の参加となり、不安な気持ちで臨みました。しかし、発表の場で石川博先生(当時・静岡
大学、現・東京都立大学)に温かく声をかけていただき、多くの先生方をご紹介いただいた
ことで、学会コミュニティの温かさに触れることができました。
特に印象に残っているのは、紹介いただいた先生方の中に、私が運営していたニュース
検索エンジン「Ceek.jp News(news.ceek.jp)」をご存じの方がいらっしゃったことです。
まさか自分の作ったサービスが知られているとは思わず、大きな喜びと、自らの取り組み
に対する自信を得ることができました。この経験は、学会という場の温かさだけでなく、
社会と研究とのつながりを強く意識するきっかけにもなりました。
さらに、DEIM2009において「優秀インタラクティブ賞」を受賞できたことも、大きな励み
となりました。初めての発表での受賞は、自分の研究に興味を持っていただけたことを
実感でき、以後の研究者人生を支える力となりました。そして今回、これまでの業績全体
を評価していただく形で、初めて発表・論文以外による賞を受賞することができました。
しかも、それが再び日本データベース学会からの表彰であったことに、深い縁を感じて
います。
このような出会いと経験を経て、私は自然言語処理を出発点としながら、次第に研究対象
を広げていきました。現在では、筑波大学の社会人大学院(東京キャンパス)にて、主に
社会人大学院生を対象に研究指導を行っています。実社会と密接に関わる学生たちととも
に、現代社会が抱える情報課題に取り組む中で、計算社会科学やScience of Scienceと
いった学際的な領域にも積極的に取り組むようになりました。
近年では、大規模言語モデル(LLMs)を活用した「会話脱線予測」や「アート分類」など
の研究指導を行うほか、ソーシャルメディア上でのプロパガンダ拡散や、科学情報の自己
訂正メカニズム、COVID-19関連情報の拡散ダイナミクスといった社会的課題にも取り組ん
でいます。これらの活動を通じ、データを用いて現代社会を理解し、よりよい未来を築く
ための知見を生み出すことを目指しています。
こうした多様な研究活動を続けるなかで、改めて実感するのは、学際性こそがデータ
サイエンスの未来を切り拓く鍵であるということです。日本のデータベースコミュニティ
は、データ工学にとどまらず、自然言語処理、情報検索、社会情報学、科学計量学など、
分野を横断する知見を柔軟に取り入れ、融合を促す稀有な場であり、その学際性に私は
深く共鳴しています。
今後は、自然言語処理、計算社会科学、Science of Scienceといった自らの研究領域と
データベースコミュニティをつなぐハブとなり、異なるコミュニティ間の対話と共創を
促進する役割を果たしていきたいと考えています。そして、かつて私を温かく迎え入れて
いただいたあのときのように、新たに学会の門を叩く若手研究者・学生たちにとっても、
日本データベース学会が刺激と成長の場であり続けるよう、微力ながら尽力してまいり
ます。
最後に、これまで支えてくださった指導教員、共同研究者、学会関係者の皆さまに心より
感謝申し上げます。今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしく
お願い申し上げます。また、これまで受けた多くのご支援に応えるべく、私自身も次の
世代を育み、学術と社会の発展に貢献できるよう、努力を重ねてまいります。
著者:吉田 光男(筑波大学)
2014年筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻博士後期課程
修了。博士(工学)。同年、豊橋技術科学大学大学院工学研究科(情報・知能工学系)
助教、2021年筑波大学ビジネスサイエンス系准教授。計算社会科学、ウェブ情報学に関する
研究に従事。日本データベース学会、計算社会科学会、言語処理学会、人工知能学会、
情報処理学会各会員。
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■2−6■ ⽇本データベース学会若⼿功績賞を受賞して 〜データベースを軸に、分野の壁を越えて〜
劉 健全(NEC)
この度は、歴史ある日本データベース学会(DBSJ)より、若手功績賞という大変名誉ある
賞を賜り、身に余る光栄であるとともに、心より感謝申し上げます。ご推薦くださいまし
た先生方、日頃よりお世話になっております会員の皆様、そしてこれまで温かくご指導く
ださいました全ての皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
思い返せば、私がDBSJと関わらせていただくようになったのは、データ工学と情報マネジ
メントに関するフォーラム(DEIM)の前身である「データ工学ワークショップ(DEWS)」
が2008年に宮崎で開催された時まで遡ります。それ以来、DEIMでの研究発表や運営委員・
座長・コメンテータ、データ工学研究会の専門委員などを通じて、データベース分野に
深く軸足を置きながら、微力ながらも学会活動に携わらせていただきました。大きな転機
となったのは、2012年に日本電気株式会社(NEC)に入社したことです。中央研究所にて
データベース技術と画像認識技術を融合させる研究開発に取り組む機会を得て、マルチ
メディア分野というもう一つの重要な軸足を持つことになりました。幸いなことに、データ
ベース技術を活用したマルチメディア処理、特に大量映像データの高速解析に関する研究
が少しずつ実を結び、ACM Multimedia (MM) や ACM ICMR、IEEE ICIP、IEEE ICMEといった
国際会議での論文発表や、IEEE MIPR 2021の日本誘致・実行委員長としての運営経験など
を通じて、日本のデータベースおよびマルチメディア分野の国際的なプレゼンス向上に、
ささやかながら貢献できたのではないかと感じております。これらの活動が、DEIMにおける
「メディア処理・人間中心情報マネジメント・Web情報」トラックの新設に繋がったこと
は、個人的にも大変嬉しい出来事でした。
現在は、NECにおいて、世界初となる「映像認識AI×大規模言語モデル(LLM)」を融合した
技術の企画・設計・開発プロジェクトを主導し、NECのマルチモーダル生成AIに関する
研究開発と実用化をけん引する立場にあります。学会活動におきましても、DBSJでの経験
を礎としながら、より裾野を広げて活動させていただいております。国内では電子情報
通信学会や映像情報メディア学会が主催する研究会の運営に幹事等として関わり、海外に
目を向ければ、IEEE Signal Processing Society や ACM SIGMM が主催する主要な国際会議
(IEEE ICIP, IEEE ICME, ACM MM, ACM ICMRなど)において、プログラム委員長や各種
委員、論文誌編集委員などを務めさせていただく機会が増えました。これらの活動を通し
て、分野間の交流促進に努めております。
NECで企業研究者として十数年間、研究開発に取り組む中で痛感していることがあります。
それは、実際に世の中で役立つ商用システムやソリューションを開発するには、一つの
専門分野の技術だけでは不十分であり、複数分野の技術をいかにうまく融合させるかが鍵
になる、ということです。そして、その融合の根幹には、普段はユーザーの目からは見え
にくい、いわば「縁の下の力持ち」としてのデータベース技術の価値、そしてその技術を
支え発展させてきたDBSJのような学会コミュニティの存在意義が、極めて重要であると
再認識いたしました。この度の受賞を励みに、これからも微力ではございますが、データ
ベース技術の可能性を信じ、その輪を様々な分野へと広げていくことで、データベース
技術および本学会コミュニティの価値をより多くの方々に「見える化」できるよう、努力
を続けていきたいと考えております。
末筆ではございますが、この度の若手功績賞受賞に際し、改めて関係各位に深く感謝申し
上げます。この栄誉は、私にとってこれからの研究者人生における大きな励みとなります。
今後とも、皆様からのご指導ご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
(本稿の執筆にあたり、Geminiを用いて文章添削を行いました)
著者:劉 健全(NEC)
2012年筑波大学博士(工学)。同年NEC入社、2022年よりディレクター(部長) 。2015年より
法政大学兼任教員、2024年より名古屋大学客員教授。データベース技術と映像解析技術の
融合に関する研究開発に従事、継続的に研究成果を製品化。国際論文70+本、意匠・特許
出願100+件。ACM MM 2024とIEEE ICIP 2023の産業委員長やIEEE MIPR 2021の実行委員長
を含む多数の国際会議のプログラム委員長を歴任。2023年度電子情報通信学会業績賞、
2023年度映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞、第69回電気科学技術奨励賞・文部科学
大臣賞、情報処理学会2018年度業績賞・2020年度研究開発賞などを受賞。
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■3■ 日本データベース学会上林奨励賞
上林奨励賞は、故 上林弥彦 日本データベース学会初代会長のご遺族からご寄贈頂いた資
金を活用し、データベース、メディアコンテンツ、情報マネージメント、ソーシャルコン
ピューティングに関する研究や技術に対して国際的に優れた発表を行い、かつ本会の活動
に貢献してきた若手会員を奨励するためのものです。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会上林奨励賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_04
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■3−1■ 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜行雲流水〜
高木 駿(LINEヤフー株式会社)
まず最初に、このような栄えある賞を頂戴し、データベース学会関係者の皆様に心より
感謝申し上げます。誠にありがとうございました。このような光栄な賞をいただけるまで
に至った自身の歩みを、少し振り返らせていただきたいと思います。
私はもともと大きな志や野望があったわけでもなく、バイトばかりして過ごす、流される
ままの日々を送っていたごく平凡な大学生でした(今もまだまだ凡庸ですが)。そんな私
の人生が大きく変わったのは、学部四年生の春、研究室を選ぶタイミングでした。吉川
正俊先生の研究室の募集要項の「深く物事を考えるのが好きな人」というのを聞いて、
直感的に「ここだ」と決めました。自分を褒めるとしたら、この時の直感の鋭さだと思い
ます。
吉川先生はとても温かくユーモアのあるお人柄で、その雰囲気がそのまま研究室にも反映
されていました。メンバーは40人を超えていたと思いますが、何も知らない当時の私は
「人が多いなぁ」としか思っておらず、この環境の素晴らしさに気づいていませんでした。
今振り返ると、吉川先生の作ったこの充実した環境こそが、私がここまで成果を出すこと
ができた最大の要因だったと感じています。そんな大所帯の中の一人であった私にも、
吉川先生は常に温かく丁寧にご指導くださいました。プライバシー保護研究の分野で国際
的に最前線を走る研究室に留学する機会もいただきました。研究者として行き詰まった時
には、励ましの言葉をかけてくださり、研究者としてだけでなく、人としても尊敬できる
方でした。吉川先生の導きがあったからこそ、自分らしく、楽しみながら研究に取り組み、
大きな成果へと繋げることができたのだと思います。
そんな環境で多くの方々と出会って良い影響を受けることができました。曹洋先生からは、
国際的に活躍される研究者としての姿勢と、研究の深め方を間近で学ぶことができました。
研究する力を国際的な舞台で発表できるレベルまで高めることができたのは、曹先生の
熱心なご指導のおかげです。また、積極的な交流活動の先導力も非常に尊敬しています。
さらに、Li Xiong先生のもとでアメリカに留学した際には、吉川先生のような優れた教授
の方々と出会い、強い刺激を受けました。世界的に活躍している研究者を間近で見ること
ができ、多くのことを学びました。特にXiong先生のリーダーシップの高さに圧倒され、
少し挫折感を覚えることもあったくらいです。私の研究者の道のきっかけをつくって
くださったのは、浅野泰仁先生です。純粋に「頭がいい!」と思えるようなご指導に研究
者の魅力を感じました。浅野先生のご指導のおかげでデータベース学会での受賞でき、
「自分も研究ができるかも?」という自信を持つことができたのは、大きな転機でした。
また、同期の加藤郁之くんの存在も非常に大きなものでした。日々、同じ分野の仲間とし
て切磋琢磨できたのは、とても貴重な経験です。博士課程の終わりには、それぞれがVLDB
に採択され、ともに渡航できたことも素晴らしい思い出です。彼は研究以外の面でも卓越
しており、とりわけそのイニシアチブには、アメリカで出会った教授の方々ようなものを
感じます。いつか学術の世界に戻ってきてほしいと、密かに願っています。ここでは語り
きれませんが、他にも髙橋翼さんをはじめとした多くの方々にお世話になりました。この
場を借りて、関わってくださったすべての皆様に、心より感謝申し上げます。本当にあり
がとうございました。
そして、私にとってもう一つ大きな原動力となったのが、日本データベース学会の存在
です。発表の機会、議論・交流の場、そしてこのような受賞の機会は、常に研究の大きな
モチベーションとなってきました。DEIMで登壇されている先生方のご講演に触れるたびに、
人間としての魅力に尊敬と刺激を受け、自分ももっと頑張ろうと思わされます。
まだまだ力不足ではありますが、ロールモデルである皆様に少しでも近づけるよう努力を
続け、いつか必ず恩返しができたらと思っております。
著者:高木 駿(LINEヤフー株式会社)
データ利活用におけるプライバシーとセキュリティに関する研究者。2024年に京都大学
大学院情報学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1を経て、2024年4月
にLINEヤフー株式会社に入社(現職)。主に差分プライバシと秘密計算を中心に研究活動
を行っている。
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■3−2■ 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜他分野からの挑戦〜
小幡 紘平(大阪大学)
この度は、栄えある「上林奨励賞」を賜り、大変光栄に存じます。日本データベース学会
の皆様、ご指導頂いた先生方、そしてこれまで支えてくださったすべての皆様に、心より
御礼申し上げます。
受賞の契機となったWWW 2024の論文は、時系列テンソルのネットワーク構造を基にした
パターン検出に関するものです。思い返せばDEIM 2023が研究の方向性を大きく変える
転機でした。当初はパターン検出の後に将来予測を行う二段階予測手法として提案してい
ましたが、その時のセッションの座長であった藤原靖宏先生に「手法が複雑」とのご指摘
をいただいたことがきっかけで、パターン検出に注力したシンプルで洗練された手法へと
進化し、採択に繋がりました。このように私の研究成果はデータベースコミュニティの
皆様の支えがあってこそ得られたものであり、改めて感謝申し上げます。
私はもともと農学部出身で、大学院進学を機に情報科学の道へと進みました。Pythonすら
まともに扱えなかった私を快く受け入れてくださった櫻井先生には感謝してもしきれま
せん。そのような状況から、論文を採択されるまでに至ったのは「選択と集中」した結果
だと考えています。論文採択だけを目標と定め、関連分野(私の場合、time series)の
採択論文をひたすら読み込みながら、うけがよさそうな研究テーマと効果的なプレゼン
方法を常に意識してきました。執筆段階では、先生方から論文の書き方をご指導いただき、
研究室のメンバーと議論できたことが助けになりました。必要な知識や技術をその都度身
につけるようにしたことが、時間短縮につながったと考えています。情報処理分野における
包括的な知識が足りていない不安は未だつきませんが、今後様々な研究課題に取り組む中
で補っていきたいです。
近年、国際会議への論文投稿数と同様に、情報科学を志す大学院生の数も年々増加してい
ます。実際に、大阪大学情報科学研究科における入試倍率は、私が受験した2021年度の
1.26倍(出願者202名/受験者192名/合格者152名)から、2025年度には1.80倍(433名/
358名/199名)へと大きく増加しています。私のように他分野出身の学生も増えてくると
思いますので、私の経験や考え方が一つの参考となれば幸いです。
著者:小幡 紘平(大阪大学)
2020年名古屋大学農学部応用生命化学科卒業。2023年大阪大学大学院情報科学研究科博士
課程前期修了。大阪大学大学院情報科学研究科博士課程後期在学中。時系列データ
マイニングの研究に従事。ACM、日本データベース学会会員。
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編集 北山 大輔 (日本データベース学会 広報委員会 担当編集委員、工学院大学)
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Daisuke Kitayama
Interactive Media Lab.
Department of Information Science
School of Informatics
Kogakuin University
Associate Professor, Ph.D
+81 3-3340-2683
kitayama(a)cc.kogakuin.ac.jp
北山大輔
工学院大学 情報学部 情報科学科
インタラクティブメディア研究室
准教授 博士(環境人間学)
03-3340-2683(内線:2814)
kitayama(a)cc.kogakuin.ac.jp