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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2023年12月号 ( Vol. 16, No. 7 )
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冬晴れが心地よい師走の候,皆様におかれましてはお変わりなくお過ごしでしょ
うか.ますますご多忙の時期に恐れ入りますが,お体にお気をつけて良き新年を
お迎えください.皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます.
さて,本号では, 9月に開催されました,推薦システム分野における世界最高峰
のトップカンファレンス「ACM RecSys」をはじめ,10月に開催されました,情報
検索,データベース,ナレッジマネジメントやマルチメディア分野での最重要国
際会議「ACM CIKM」と「ACM Multimedia」についてご寄稿いただきました.それ
ぞれの会議の特徴や最近の傾向,トップカンファレンスへの投稿のメリット,論
文採択に至るまでの工夫など,皆様のご参考になれば幸いです.
本号ならびに DBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.
DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 王 元元)
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目次
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1. ACM RecSys 2023 参加報告
冨田 燿志 株式会社サイバーエージェント
2. ACM CIKM 2023 参加報告
山口 晃広 東芝研究開発センター
3. ACM Multimedia 2023 参加報告
諸戸 祐哉 北海道大学
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■1■ ACM RecSys 2023 参加報告 冨田 燿志 (株式会社サイバーエージェント)
RecSys 2023 (17th ACM Conference on Recommender Systems) が2023年9月18日
から22日まで,シンガポールにて開催されました.RecSysは推薦システム分野の
トップカンファレンスです.今回私は採択された共著論文の発表のため現地参加
しましたので,その参加報告をさせていただきます.
今回のResearch Paperの投稿状況は,Full Paperが投稿269本中採択 47本(採択
率17.47%),Short Paperが投稿214本中採択48本(採択率22.43%)でした.投稿
数は年々増えているようで,昨年の参加時はメインカンファレンスの発表セッシ
ョンはシングルトラックでしたが,今年は 2トラックのパラレルセッションとな
っていました.インダストリートークのトラックもあり,今年は14件の口頭発表
と16件のポスター発表がありました.参加者数は997人(うち72.63%が現地参加)
で,アカデミアが37.37%に対しインダストリーが62.63%と,インダストリーから
の参加者割合が非常に多くなっています.また,日本からの参加者は58人で米国
・中国に次いで 3位となっており,日本での推薦システムへの関心の高さが感じ
られます.現地でも日本のアカデミア・インダストリー双方からの多くの参加者
にお会いでき,交流することができました.
学会期間 5日間のうち,最初 2日間がチュートリアル・ワークショップ,あとの
3日間がメインカンファレンスでした.チュートリアルでは「Tutorial on Large
Language Models for Recommendation」のセッションが非常に聴講者が多く盛況
で,メインカンファレンスにおいても LLM関連の発表が多数あったこともあり,
やはり推薦システム分野においても LLMの波を感じました.メインカンファレン
スでの基調講演は,Jaime Teevan氏(Microsoft),Tat-Seng Chua氏(National
University of Singapore),Rajeev Rastogi 氏(Amazon)の三講演があり,特
に Amazon における推薦システムの変遷と課題・アプローチと今後の展望につい
て議論した 3件目の講演は,インダストリーで推薦システムの研究に携わってい
る身として非常に興味深いものでした.また,メインカンファレンスでの発表は
LLMの他では,協調フィルタリングや逐次推薦(Sequential Recommendation)に
関する発表が昨年に続き多くありました.
私はメインカンファレンス初日のApplicationのセッションにおいて,Full Paper
として採択された「Fast and Examination-agnostic Reciprocal Recommendation
in Matching Markets」の発表を行いました.こちらは同僚の富樫陸氏,橋爪友
莉子氏,大坂直人氏との共著で,求人情報サービスやオンラインデーティングサ
ービスなどのマッチングサービスにおける相互推薦に関する研究です.広く実用
されている相互推薦手法では,人気ユーザに被推薦機会が集中してしまう課題が
指摘されています.私たちはこの課題に対し,経済学分野において労働市場・結
婚市場の分析のために用いられる「TUマッチングモデル」と呼ばれるモデルを相
互推薦に応用しました.発表時には多数の質問をいただくことができ,今後の研
究につながる貴重な議論ができました.
来年の RecSys 2024は,イタリア・バーリで開かれます.推薦システムの応用に
関する研究は多数ありましたが,インダストリーからは世界的なビッグテックに
よる発表が多かった印象です.日本にも高い技術力を持ち推薦システムの開発を
行っている企業は多数ありますが,そのような企業からRecSysへの投稿が増えれ
ば推薦システム分野における日本の存在感はより増すように感じました.来年は
日本からの投稿が増えることを期待するとともに,私たちも来年また発表できる
よう,今後も研究を続けていきたいと思います.
著者紹介:
冨田 燿志 (株式会社サイバーエージェント)
サイバーエージェントAI Lab経済学社会実装チームリサーチサイエンティスト.
2018年東京大学経済学部卒業(経済学部卒業生総代),2019年東京大学大学院経
済学研究科修士課程修了(経済学研究科修了生総代),2020年サイバーエージェ
ント入社.マッチング理論,マーケットデザイン,ゲーム理論の研究と社会実装
に取り組んでいます.
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■2■ ACM CIKM 2023 参加報告 山口 晃広 (東芝研究開発センター)
2023年10月21日から10月25日にかけて The 32nd ACM International Conference
on Information and Knowledge Management (CIKM 2023) が開催されました.私
はpre-conference後の3日間で開催された本会議に現地参加しました.CIKM はデ
ータマイニング, 情報検索,データベースに関する研究を扱う重要な国際会議の
一つです. Full Paperは投稿数1,472に対して採択数354(採択率24%), Short
Paperは投稿数554に対して採択数152(採択率27%),Applied Research Paperは
投稿数254に対して採択数75(採択率32%),Demo Paperは投稿数74に対して採択
数26(採択率35%), Resource Paperは投稿数81に対して採択数22(採択率27%)
でした.これら全体の投稿数は2,435件であり去年の投稿数2,257件と比べても緩
やかに増加しています.
今年は基本的には現地参加となりましたが,現地参加できない方のために本会議
終了後に興味のある発表をオンラインで聴講し議論する機会も設けられました.
また,現地参加が難しい場合はオンラインで発表されていました.セッション全
体を見渡すと,推薦が最も多く次いでシーケンスモデルやグラフ学習が多いよう
でした.一方,データベースシステムに関する研究は少なかった印象です.シー
ケンスモデルのセッションでは,私が主に研究対象としている時系列データのク
ラス分類や異常検知のような問題に加えて,従来では静的に扱うことが多かった
グラフや表データ(の一部)あるいはバンディットアルゴリズムなどに対して,
時間経過によりデータの傾向が動的に変化する場合を考慮する研究が目に留まり
ました.一方,交通など人々の活動を時空間上で予測する研究については別のセ
ッションで発表されていました.
私はFull Paperトラックにおいてシーケンスモデルのセッションで「Time-series
Shapelets with Learnable Lengths」というタイトルで発表しました.ここで,
shapelets とはターゲットとなるクラスの時系列データに類似しその他のクラス
の時系列データから逸脱するという性質を持つ複数の局所波形パターンです.従
来技術では各shapeletの長さをハイパーパラメータとして固定していたのに対し
て,提案技術では各shapeletの長さを shapeletsの形状と一緒に連続最適化の中
で学習します.また,この長さの学習が shapeletsに期待される性質を強調する
ように学習されることを理論的に保証し,実験的にも分類性能や合計学習時間な
どで有効性を確認しました.
その他,近い分野で主要な成果を出されている研究者が発表のために来られてお
り対面でお話できたことも現地参加して良かったことの一つです.また,中国本
土からの発表が多く日本のプレゼンスを高めていきたいと感じました.今後も,
本分野の発展に貢献していきたいです.
著者紹介:
山口 晃広 (東芝研究開発センター)
2006年に神戸大学大学院自然科学研究科数学専攻修士課程を修了.同年,株式会
社東芝に入社.2011年から2015年まで名古屋大学に出向.社会人博士として2018
年名古屋大学大学院情報科学研究科情報システム学専攻博士後期課程を修了.博
士(情報科学).2016年から現在まで東芝研究開発センター 知能化システム研
究所 システムAIラボラトリーで主にインフラ・製造分野を応用先として時系列
データを用いた機械学習・データマイニングの研究に従事.
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■3■ ACM Multimedia 2023 参加報告 諸戸 祐哉 (北海道大学)
2023年10月29日から11月2日にかけて催されたThe ACM International Conference
on Multimedia 2023 (ACM Multimedia 2023)に参加してきましたので,その報告
をさせていただきます.
ACM Multimedia はマルチメディア分野におけるトップカンファレンスの1つであ
り,マルチメディアデータの解析・応用に加えて,人工知能,メタバース,視覚
と自然言語,ヒューマンコンピュータインタラクション等の幅広い研究を扱って
います.本会議となる Main Track に加えて,Brave New Ideas,Open Source,
Doctoral Symposium, Technical Demos, Grand Challenges と題された Trackが
用意され,いくつかの発表がありました.さらに,感情分析に関するワークショ
ップ(The 4th International Multimodal Sentiment Analysis Challenge and
Workshop: MuSe 2023)やユーザ中心の動画要約に関するワークショップ(The
2nd Workshop on User-Centric Narrative Summarization of Long Videos)を
始めとした,独創的な16のワークショップが用意されていました.
今年で第31回となるACM Multimedia 2023はカナダのオタワで開催されましたが,
ビザの問題で現地参加できない方が多くいたようで,現地での発表は少数でした.
開催形式としては,現地とオンラインのハイブリット開催でした.当初,オンラ
インでの発表は予定されていなかった様子で,現地に参加できない著者の発表で
は,事前に録画した動画を流す形式で発表が行われました.現地の発表形式とし
ては,Best paper Award のセッションはオーラル発表で,それ以外の発表は2分
程度のティーザー・ポスター発表でした.論文採択時にはオーラル発表とポスタ
ー発表の指定があったようですが,上述のように現地での参加者が少数であった
ため,このような発表形式になったとのことです.また, 10月29日と11月2日は
チュートリアルとワークショップ中心の日程であり,ワークショップでの発表形
式はセッション毎に異なっていました.なお,現地では感染症流行の影を見るこ
とはなく,コロナ前と変わらない雰囲気でした.
採択に関しては,Main Track の採択論文数は 902件,投稿数は 3,669件,Desk-
reject後の投稿数は3,071件,採択率は24.6%であり,投稿数に関しては年々増加
傾向にあるようです.採択された論文の割合としては,Understanding Multimedia
Contentに関する論文が53%,Multimedia Systemsに関する論文が4%,Experience
に関する論文が32%,Engaging Users with Multimediaに関する論文が11%であっ
たことが報告されており,コンテンツ理解に関する発表が半数を占めるものの,
多様な論文が採択されていることが伺えます.また,近年の生成AI発展の潮流を
受け,Social-good, Fairness and Transparencyに関する論文も新たに受け入れ
ており,数多くの投稿があったようです.Best Paper AwardはKexin Liらによる
CATR: Combinatorial-Dependence Audio-Queried Transformer for
Audio-Visual
Video Segmentation (
https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3581783.3611724)
でした.この論文では, Audio-visual Video Segmentationという,音に基づき
画像を分割するタスクに取り組んでいます.
最後に,私の発表内容について紹介させていただきます.私は,Main Trackのセ
ッションではなく,Technical Demos に筆頭著者の論文「Personalized Content
Recommender System via Non-verbal Interaction Using Face Mesh and Facial
Expression」 (
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3581783.3612675) が採択され
ました.本論文では,マルチメディアコンテンツの推薦システムに対して,ユー
ザの顔画像解析を導入することで,ユーザにパーソナライズした推薦結果を提示
可能とするシステムを発表しました.従来の推薦システムでは,ユーザの閲覧履
歴やコンテンツに対する評価等のインタラクションデータを用いて推薦が行われ
ていましたが,ユーザがインタラクトしたコンテンツ数が少ない場合に,ユーザ
の嗜好を取り入れた推薦が困難であるという課題が存在していました.そこで,
本論文では,ウェブカメラより得られる顔画像を導入することで,コンテンツ閲
覧時のユーザの反応を解析し,インタラクションが少数である場合にもユーザに
パーソナライズした推薦を実現可能なシステムを構築しました.本システムはユ
ーザの個人パソコンで動作するように設計しており,下記の URLよりアクセス可
能です.
日本語版:https://www.lmd-demo.org/2022/start.html
英語版:https://www.lmd-demo.org/2022/start_eng.html
本システムの構築で工夫した点としては,顔画像をサーバにアップロードせずに
解析するために,深層学習モデルをエンド端末で動作するように実装した点,ウ
ェブ公開することで誰でもシステムを体験できるようにした点があります.一方,
人種・文化等の個人的な背景により表情の変化が異なるため,顔画像からユーザ
の反応を推定する機構の構築に苦労しました.この機構をはじめとして,本シス
テムはいくつかの要素技術から構築されておりますが,各要素技術において改善
の余地はあります.しかしながら,本論文の貢献は,多様なAI分野の技術を集積
し,システムとして動作させた点にあるので,システム全体に対するアイデアや
実装が評価されたと個人的には考えております.
私たちの論文を含め,Technical Demos のセッションの採択論文では,詳細な課
題が残存していたとしても,システムとしての新規性やインパクトがあれば,そ
こが評価されて採択につながっている印象を受けました.本セッションに論文を
投稿するにあたって必要となるものは,ACMフォーマットで2ページ(+参考文献)
の論文と 5分以内でシステムを紹介する動画でした.論文では,システム開発の
背景や関連研究との違いを説明しつつ,システム内部の処理や新規性についての
説明を行いました.論文の執筆に関しては通常の論文と同様に執筆しましたが,
動画に関しては作成に慣れておらず,苦労しました.動画では,システムを実際
に動かすことで査読者にインパクトを与えることを意識しましたが,どのように
動画を構成して,何を見せれば良いのか,という根本的な知識が不足しており,
手探りで動画を作成しました.この動画も論文のURL
(
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3581783.3612675) から閲覧可能ですので,
興味のある方はご覧ください.なお,ACM Multimedia 2023のTechnical Demosに
おける採択論文数は19件,投稿数は40件,採択率は 47.5%でした.当日の発表で
は,現地参加の多くの方にお越しいただき,システムを体験していただきました.
幸運にも,面白いという肯定的なご意見を多くいただくことができました.さら
に,システムを構成する各要素技術について,専門とする方から鋭いご指摘やア
イデアをいただくことができ,とても勉強になりました.幅広い分野の研究者が
参加していることもACM Multimediaの大きな特徴であり,分野の垣根を超えた議
論ができたことも良い経験でした.
ACM Multimedia 2024 はオーストラリアのメルボルンにて開催予定で,今年度の
ようなビザの問題が発生しないように運営を行うとのことでした.是非投稿をご
検討ください.
著者紹介:
諸戸 祐哉 (北海道大学)
北海道大学大学院情報科学院情報科学専攻博士後期課程 3年在籍,日本学術振興
会特別研究員 DC1.2019年3月に北海道大学工学部を卒業し,2021年3月に同大学
大学院情報科学院情報科学専攻修士課程を修了の後, 2021年4月より現在の所属
に至る.画像・動画像等を対象としたマルチメディア信号処理,視線・脳活動等
の人間の生体情報処理に関する研究に加え,それらを協調的に扱う異種データの
マルチモーダル解析に関する研究に従事.
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王 元元
山口大学大学院創成科学研究科
工学系学域・知能情報工学分野
(兼担:工学部知能情報工学科)
助教 博士(環境人間学)
y.wang(a)yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang(a)gmail.com
0836-85-9522
Yuanyuan Wang, Ph.D
Assistant Professor, Department of Information Science and Engineering,
College of Engineering,
Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi
University, Japan
E-mail: y.wang(a)yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang(a)gmail.com
Tel: +81-836-85-9522