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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2025年11月号 ( Vol. 18, No. 6 )
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本号では,若手研究者の方々の対談記事を企画しました.
産学両面で参加をお願いし,神戸大学,NEC,NTT,京都大学の方々に参
加いただき,多様な意見を交換する対談になりました.
特に,研究者を志す若い学生の方のご参考になればと思います.
本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する
内容についてご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまで
お寄せください.
DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 駒水 孝裕)
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対談企画について
駒水 孝裕(名古屋大学)
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本企画も4回目となりました.当初の想定以上に多様な方々に参加いただ
き,若手研究者同士の交流というだけでなく,異分野・異業種の交流機
会になってきました.多様な視点を持つ方々を対談という形で起こすこ
とで,よりそれぞれの考え方の違いを感じ取れる記事になったと思います
ので,ぜひご一読いただけると幸いです.
今回の対談には,以下の4名にご参加いただきました.
♤ 三林 亮太(神戸大学)
♢ 枌 尚弥(NEC)
♧ 赤木 康紀(NTT)
♡ 廣中 詩織(京都大学)
対談では,以下の質問を設定しました.
1. 氏名と所属と現在行っている研究を教えて下さい
2. 現在の職場で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
3. 学生時代の研究と大学や企業の研究でギャップを感じたこととその
理由を教えてください.
4. 取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて
下さい.
5. 学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
6. 今後に取り組みたいことを教えて下さい(キャリアパス,研究テーマ,
気になる技術など).
7. 途中話題:アカデミアと企業の給料の上がり方
8. 後日談:今回の対談企画に参加した感想を聞かせてください.
以下対談の内容になります.お楽しみください.
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◎氏名と所属と現在行っている研究を教えて下さい
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♤ 三林
三林 亮太といいます.神戸大学の国際文化学研究科で,助教しています.
今は日本語のLLMの性能評価に興味があって,その評価データをどうやっ
て作るかというのを研究しています.
♢ 枌
枌 尚弥と申します.NECのビジュアルインテリジェンス研究所で研究員
をしています.私は視覚言語モデルを使って文章で画像を検索する手法に
関する研究をしています.また,画像検索を災害が起きた時の被災状況
把握へ適用する研究をしています.
♧ 赤木
名前は赤木 康紀と申します.NTT株式会社の人間情報研究所に所属して
おります.自分は数理モデリングとか数理最適化が専門なんですけれど
も,今やってるのは人間の行動を数理モデル化し数理最適化を用いるこ
とで,介入を最適化することをやっています.特に,人間の持つバイア
スに注目していて,最近は現在バイアスっていう,人間は直近のものを
過大評価して,先延ばしちゃうっていうバイアスがあるんですけど,そ
ういうものを数理モデル化して,それに対して介入して,影響を軽減す
るようなことを研究しています.
♡ 廣中
廣中 詩織です.今は京都大学の学術情報メディアセンターにある研究室
で助教をしています.研究はソーシャルメディアの分析やソーシャルネッ
トワークの分析などをしています.最近いろいろなことにも手を出してい
るのですが,ネットワーク系や計算社会科学に関するようなことをして
います.
♤ 三林
具体的にどんなことに手を出してるのですか?
♡ 廣中
いろいろなことをやっている幅の広い研究室なので,最近だとブロック
チェーンとかハイパーグラフとか.最近,陰謀論とかの分析にも手を出
して,本当に幅が広いなあという感じです.
♤ 三林
僕も前の所属研究室ではプラズマの予測をやったり,書道の文字を生成
するのを一緒にやったりした経験があります.周りにいろんな人がいる
と幅の広い知識がついて,楽しくはありました.なんかそんなことがそ
ちらの研究室でも起きているのかなと勝手に思っています.
♡ 廣中
楽しくはありますね.追いつくのが大変であったりはしますけど.
☆ 駒水(司会)
赤木さんの現在バイアスってどうモデル化するんですか?
♧ 赤木
いろいろなモデル化の仕方があるんですけど,時間割引関数という,今
から何時間後の価値はどれぐらい割り引きます,という関数を使ってモ
デル化します.この関数をいろいろいじると,人間の行動に関する色々
な性質を調べることができます.
♢ 枌
個人の特性とかも考慮しないといけい気がするんですけど,そういうの
もできるんですか?
♧ 赤木
はい,できます.モデルにパラメーターがいくつかあるので,うまく調
整してそれぞれの個人に合わせることになります.データからその人の
持つパラメータを推定するのも重要ですし,推定できたときにどのよう
に介入したらいいかを調べるのも重要です.
♢ 枌
個人のパラメーターの推定ってすごく難しそうな気がします.
♧ 赤木
はい,そうだと思います.いろいろやり方は提案されていて,実際の人
間の行動から推定する方法とか,アンケートとか,色々あるんですけど
,実際結構ブレがあったりして.推定結果が本当に正しいかを検証する
のも割と難しくて,決定打はないという状況だと思います.だから研究
しないといけない,という話でもありますが.
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◎現在の職場で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
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♡ 廣中
次の職場を探していた時にマッチしそうな募集があることを教えてもら
って応募してここに来たという感じですね.もともと小規模な研究室の
出身だったので,ある程度マッチすればどこでも楽しんでいけるかなと
思ってやってきたという感じですね.
♧ 赤木
僕は修士の時,博士に行けるほど真面目に研究をしてなかったんですけ
ど,研究職をやりたいなっていう考えがあって.それで企業の研究所に
行こうと思って企業研究所受けて今NTTにいます.もともとNTTに入った
時はもっと基礎的な研究所に行きたくて,そこに志望を出したんですけ
ど,配属が応用よりの研究所になったので,配属は完全な思い通りじゃ
なかったっていう感じで.思っていたのとギャップもあったんですけど
,やっているうちに悪くないやと思って,気づいたら十年いるっていう.
♡ 廣中
十年いるって事はまあそれなりにその職場が気に入ったっていう感じな
んですね.
♧ 赤木
そうですね.だいぶ気に入ってます.でも最初の方は違和感あったんで
.やめることもなくはないなと思っていたんですけど,周りの人がいい
人だったり,上司が頼れる人だったとか,研究が進んでくると楽しくな
ってくるとか,そういうのがあって,だんだん悪くないなと思って.
♢ 枌
私は博士課程の時から画像認識の研究していて,引き続き似たような研
究したいなと思ったので,それをベースに探してました.NECは画像認識
に関する研究をいろいろやっていて研究のレベルも高いと思ったので,N
ECを選びました.学会で知り合った方から色々話しを聞いたのがきっか
けになったかなと思ってます.
♤ 三林
神戸大学に行こうと思ったきっかけは,DBJapanでメールが流れてきて,
これはマッチするかもしれないっていうので受けたっていうのがきっか
けです.アカデミアに行った理由としては,生活スタイルが博士課程と
変わらんだろうと思っていたからです.今は学費を払いながら忙しい思
いをしているけどアカデミアに行けば,お金をもらいながら今の生活が
続くので,シームレスに働いてないかのように今後も過ごせるかなと思
ったので,アカデミアに行ったっていうのが理由ですね.今働きはじめ
て半年ぐらいですけど,確かに働いている感覚はなくって,なんか毎月
十何日にお金が入ってくるなぁという認識でいます.当時思い描いてい
た作戦は成功した気がします.
☆ 駒水(司会)
(全員に)今の職場に応募する時に,どういう感じで就活をしたのかを
簡単に教えてもらえますか?
♡ 廣中
順番に出して通ったところに行こうかなみたいな感じでやっていました
.一個目ではないんですけど,そんなにたくさん大量に出したわけでも
なく,意外と早い段階でマッチしてラッキーという感じではありました
.運によるところが大きいとは思います.
♧ 赤木
僕は研究所5,6個受けたっていう感じだったと思います.その中でいく
つか内定をもらって,いろいろ考えたんですけど,社員さんとかと話し
た時とか,環境とかを考えて一番良さそうだなと思ったので,NTTにしま
したね.
♢ 枌
確か2,3社ぐらい受けようとしていました.似た分野の会社を受けよう
としていたんですけど,NECが早く決まったので,最終的にがっつり就活
やったのは1社で終わったかなと思います.決まらなかったら,もう2,
3社できるぐらいの準備はしてたんですけど,運よく早く決まったので割
と少なかったかなという感じです.
♤ 三林
企業1件と大学2件のトータル3件受けました.企業はよくあるスカウトみ
たいなのが来てて,それを受けたのですが序盤で落ちちゃって,企業っ
てかなり難しいんだなという印象でした.そこから割とポケーっとして
いて,DBJapanから流れてくる求人を受けて,受かった今の大学に決めた
っていう感じですね.
よく博士の後輩とかに就活っていつやるんですか?とか言われるんです
けど,別にいつとかないし,何社受ければいいかって言われても今でも
よくわからなくて答えに困ります.
♧ 赤木
アカデミアの話が気になるんですけど,公募ってたくさんあるイメージ
があって.その中から自分に合うのを選ぶと思うんですけど,それって
結構難しいような気もしています.自分に合うって言っても多分濃淡が
あって,合いそうなやつだけど,逃したらまたいいの出てくるかわかん
ないみたいな,そういうのって結構あると思うんですけど,その辺って
どういうふうに設定してるのかって気になります.
♤ 三林
JREC-INの文面からこの辺までならストライクゾーンなんだろうなみたい
なことを勝手に想像して向こうが求めてそうな人材であれば行く感じで
すね.それが合わなかったら当然落としてくれるのでこっちからめちゃ
めちゃ頑張るみたいなことはない気がします.空気読みゲーな感じがし
ます.
♡ 廣中
空気読みと情報調査能力かな.その公募の情報を他の人に聞いたりとか
はありますね.JREC-INの公募の見方は,最後のコンタクトポイントは誰
かっていうのが重要だったりするんですが,私の今のところの公募は見
てもわからなくて,わからないまま面接を受けたんですけど.メーリン
グリストとかへ流した人を見ればわかったらしいです.そういうところ
に気づけるかどうかも,情報収集能力かなみたいな.
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◎学生時代の研究と大学や企業の研究でギャップを感じたこととその理由
を教えてください.
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♢ 枌
研究自体は結構一緒だなと思ったんですけど,研究の説明というか,ど
う会社に役立つのかの説明はかなり求められます.学生の時はあまり考
えなかったことだと思います.また,ちょっと研究じゃないかもしれな
いんですけど,幅広い研究が見えて面白いです.別の研究所の話とかも
見えて,信号処理とか通信やってる人とか,研究じゃないんですけど,
こんなデザインのやり方いいですよ,みたいな.いろいろな話が見える
ので,そういうのは企業ならではなのかなと思い,ギャップもあるけど
面白いなと思った点でした.
♧ 赤木
企業と大学っていう話では,枌さんの話と似てるんですけど,会社のど
れぐらい利益なのかがシビアに説明を求められる気がするので,自分が
やりたい研究をすぐにできるというわけではないというところが,正直
ある気がします.逆に,うまく説明すれば何とかなるので,バランスを
取るのが必要で,慣れてきたら意外と自由度はあることに気づいてくる
ようなところがあると思います.あとは,共同研究的なことがしづらい
.会社の中だったらできるんですけど,大学の人とかとやろうと思った
ら,共同研究にしなくちゃいけなくて.会社で話を通さなくちゃいけな
くて,アカデミアの人はもっと気軽にやってるイメージがあるんで,そ
こはかなり違うかなと思います.
僕はもともと東大の数理情報専攻ってとこで,理論的なことをやってい
て,企業に来たら工学寄りになりました.理学ってきっちりしないとい
けないって考え方があるんですけど,工学は動けばいいという考え方も
あって,なんかいい加減なことばっかり言ってるなっていう気も最初は
したんですけど,でも慣れてくると両方を見れて面白くなってきたって
いうのはある気がします.
♤ 三林
一番思ったのは常にお金がついて回っている気がしていて,学生の時っ
てただ面白いことをずっとやれた時間だったんですけど,教員になると
お金を取ってこないといけないので,お金を取る理由がテーマ考えると
きにちらついてくる感じになっています.自分の中では面白いんだけど
,社会貢献みたいなところは担保されるかなって感じで,1個考える部分
が増えた感じがしますね.それが学生時代と大学の研究で変わった部分
かなっていう気がしています.
♡ 廣中
研究の内容は自由度があるかなっていう感じはあります.大学で働き始
めて,変わったのはお金を取ってくる必要があるっていうのと,学生と
一緒にやるっていうところかなって思います.お金を取るためにはなん
でこの研究が重要なのかのアピールを考えないといけないので,お金を
取って来れるような位置づけのことをしないといけないなとは思ったり
はします.もう1個の違いは,学生と一緒にやるっていう方ですけど,一
緒にやっていくのが面白いし,難しいところでもあるみたいな感じです
.最初から一緒にやるスキルがこちらにあるわけでもないので,一緒に
やって成長していく感じでやっているところが自分が学生だった時とは
違うかなっていう感じです.
♧ 赤木
お金の話が出てたと思うんですけど,企業は持っているサービスがあっ
て,それにこういう形でサービスに紐づくとか,もしくは新しいサービ
スを作れるからこの研究に意味があるんだみたいな主張が重要になって
くる気がするけど,アカデミアでお金を引っ張ってくる時って,どうい
う研究が持ってきやすいとかどういうところを考えるべきなのかってな
んかありますか?
♤ 三林
具体的なサービスがあるわけじゃないので,本当に自分がやりたいこと
に結びつくような社会における大事なものを探すという感じですかね.
これが企業におけるサービスに該当すると思います.国のお金を使う価
値があるって思わせないといけない部分が一緒で,そのサービスを探す
っていう形に僕の中ではなっていて,企業よりはそのサービスに相当す
る社会貢献が多いので,我々は書きやすい状態にあるのかもしれないで
すね.
♡ 廣中
自分はソーシャルネットワークの性質とかに興味があるんですけど,そ
の研究をやる意義やいい意味づけ,立ち位置を考えるみたいな感じで頑
張ってる感じです.
☆ 駒水(司会)
(枌,赤木に)企業研究所でも予算取りの話はあると思います.今まで
苦労したこと,説得に失敗したことについて経験はありますか?
♢ 枌
私はまだお金取ってくるとかは直接的にはやってないのですけど,上司
の活動をサポートするための要素とかを準備したりしています.アイデ
アを考えたり実験したりをやっていますね.事業・サービスを作る方た
ちへの説明が必要なので,研究内容や成果をわかりやすく伝える資料の
準備が大変かなという感じです.
♧ 赤木
僕も直接は関わってないんですけど,どういうふうに資料を作るかとか
,何を題材としてやっていくかとかを決めるのには関わることは結構あ
るような状況です.成功する,失敗するっていうのがあって,今年は全
然もらえなかったから,ちょっとあんまり実験できませんとか,あんま
りマシン買えませんとかっていうのはあります.
あと,今の自分は研究員の中でも研究特化のポジションにいるんですが
,そのポジションにつくために,偉い人に自分のことをプレゼンすると
か,そういうことは結構やったりしています.
♢ 枌
さっきの赤木さんの交渉するやつは,どういう材料が必要になるんです
か?
♧ 赤木
論文とか事業貢献.あとは外部にどれぐらい知られていて,会社の顔と
して使えるかどうかみたいなところとかも見られていると思います.メ
インは論文業績と事業貢献だと思います.
♤ 三林
それで言うと,アカデミアは外部資金獲得みたいなのが注目されている
気がしていてます.科研費とかをとったときに,自分が使えるお金と大
学に入るお金で直接経費と間接経費っていう二つに分かれていて,間接
経費は大学が管理・運営するためのお金であるので,そもそもお金を取
ってくるっていうこと自体が大学を支えることになっている気がします
.
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◎取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下
さい.
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♧ 赤木
研究としていい結果が出た時です.僕は最近理論的な研究をしていて.
セオリーを作るのが一つの達成になるんですけど,いいものが作れると
嬉しいなと感じます.あとは論文が通った時です.国際会議投稿するこ
とが多いので,通ったときは一番楽しいと思います.企業の研究所の他
の人がよく言うのは,自分の研究したものが会社の人とか一般のユーザ
ーとかに使われている時が達成感があるというものです.
♤ 三林
論文のアクセプトもそうなんですけど,そこに重きを置くと結構辛くな
りそうな気がしているのであんまり気にしないようにしてます.論文を
書いていていい考察が書けた時にようやく貢献できた気がしています.
自分の中で出た価値みたいなのを考察に感じるので,いい結果だけを載
せるんじゃなくて,それの意味がきちんと書けた時に,いい論文が書け
たっていう気持ちになるので,そこの達成感が結構大きいです.
仕事で言うと,大概今までにやったことない仕事を振られるので,それ
を終えた後の謎の達成感がアカデミアには結構多い気がします.そんな
仕事もあるんだという気持ちになります.
♡ 廣中
私も論文が採択されたとか,面白い現象が見つかったとか,データから
面白いことを発見できたとかは楽しいです.あとは,学生が論文を書い
たり採択されたりしても嬉しいなってなりますね.達成感とは違うかも
しれないですけど,綺麗なコードが書けたら嬉しいとか楽しいとかはい
ろいろあるかなって感じです.
♢ 枌
問題に対していい解決方法やアイデアを思いついて,共同研究者の方に
説明してイケるじゃん.ってなった時とかが一番嬉しいですね.実際イ
ケてたら,それも嬉しいんですけど,アイデア思いついた時が一番かな
.その後のやる気が出てくるっていう意味で,一番嬉しい気がします.
あと,これは企業に入ったからかもしれないんですけど,プレスリリー
ス・広報とか出してもらえるんですね.こういう研究成果が出ましたみ
たいな広報とか,場合によっては新聞とかテレビにも取り上げてもらっ
たりすると,自分一人だけではないんですけど,ああなんかすごいなっ
て,よかったなと感じます.
♤ 三林
共同研究とかをしてると,共同研究先でプレスを出してくれるというこ
とがよくあるので,それのプレスリリースがXとか見てる時に出てきたり
するという楽しさはあります.
♧ 赤木
ちょっと話戻すんですが,三林さんがいろんな仕事があっていう話をし
てたんですけど,どんな仕事が来たのかなっていうのがちょっと気にな
りました.
♤ 三林
やったことない仕事という意味ではほぼ全部ですね.博士課程で教職が
あるわけではないので授業もやったことないし,ラップバトルAIとラッ
パーの対戦みたいなイベントをやらせてもらったりなど,いろんな方向
から無茶ぶりが来て,本当に出たとこ勝負でやる仕事だなと思ってます
.そういう意味で言うと,学生の時より個人に対して仕事が来ることが
多いかもしれません.あとは委員会とかですね.大学の中の部分見えて
きて,ちょっと面白い感じです.
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◎学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
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♡ 廣中
私は昔からプレゼンや人前でしゃべるのが苦手でした.苦手だったので
すが,研究は人に伝える必要があるので,学部で研究室に配属されてか
らいろいろ先生方に指導していただいて,それなりにできるようになっ
たかなと思っていて,これはもうめちゃめちゃ大きな進歩かなと思って
ます.あとは,学生の頃よりは,もうちょっと社会のことがわかってき
たなとは思います.
♢ 枌
2つあって,1個目は廣中さんと似てるんですけど,定期的な進捗報告と
かで伝えるときに構造化して効率的に伝えられるようになってきたと思
います.もう1個がコーディングをちゃんとできるようになってきたかな
と思ってます.昔は動けばいいやと雑にやってたんですけど,人に使っ
てもらうことがあるので,きれいに書く意識が成長したかなと思います
.
♤ 三林
秘密を守れるようになったとこですかね.今までって,最悪言ってもい
いやろみたいな話ばっかだったんですけど,働きだすと本当に言っちゃ
ダメじゃんみたいなことが結構起きるので,本当に秘密にできるように
なりました.あとは,今までは大学からいかに栄養を吸って成長できる
かという感じで元を取ろうとしてたんですけど,今はまったく逆の立場
で,大学に乗っかるんじゃなくて,引っ張っていく構成員になったとい
うのを自覚します.さっきのお金取ってくるもそうですけど,大学がど
うやったらよくなるかを考えはじめたところが学生の時と比べて成長し
た部分かなって気がします.
♧ 赤木
修士で1回社会人になったから修士の頃のことなんですけど,その時って
自分が研究しているところが世界のすべてで,その中における価値観が
研究の良し悪しの判断の物差しになっていました.社会人になって研究
分野も変わったっていうこともあって,多様な視点で俯瞰的に見れるよ
うになったかなと思ってます.具体的に言うと,もともと理論系のこと
をしていて,会社に入って他の研究を見たら意外といい加減なところも
多くて,そういうのは良くないとちょっとバカにしがちでした.工学の
価値観とかだと理屈は大事だけど,動くかどうかが大事からスタートっ
ていうのはある.実際その考え方は合理的で,理屈があっても動かなか
ったら意味ないですよね.そういう考え方の違いを認めるのが大事だと
思えるようになったのは,重要な進歩だったとは思っています.
入社後最初の方にそういうのを体感させるために,自分の研究テーマに
会社の意義をつけてみんなの前で説明をする,テーマ企画というイベン
トを弊社ではやります.結構みんな辛い思いをしますね.
♤ 三林
実はそういうのやってみたかったです.大学では全然なかったです.だ
からアカデミアはずっと同じ価値観で尖った人が多いのかもしれない.
大学の研究室が商店街のガレージの一個一個であるみたいな話をされて
,なるほどなっていう気持ちになりましたね.
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◎今後に取り組みたいことを教えて下さい
(キャリアパス,研究テーマ,気になる技術など).
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♤ 三林
キャリアパスとしては准教授クラスに成長していきたいところです.研
究テーマについては今やってるテーマが最近やり始めたことなので,し
ばらくはそれをやろうと思ってます.今のLLMの挙動がわからないなりに
入出力を見てどういうものなのかを理解してみたりとか,言語によって
タスク処理能力の差があるのかが気になっています.やはりLLMがホット
なので,そこにちゃんとついていけるようなこの先5年間にしたいなと思
っています.その先で気になるのはLLMのパラメーターを見て,このレイ
ヤーはこの言語の情報を持ってるみたいな,LLMの中を見る技術が発達し
てきているので,そういった技術を用いてLLMをより理解するということ
をやりたいなと思ってます.
♧ 赤木
キャリアパスで言うと,今は研究するポジションになっているので,研
究業績と事業の貢献を積み重ねることで,偉くなっていくのが,基本的
なキャリアパスです.基本直近十年ぐらいはそういう感じでいくのかな
と思っています.
研究テーマとして気になっていることは,自分は現在バイアスっていう
人間の認知バイアスをモデル化するっていうことをやっています.他に
も認知バイアスは色々あって,リスクに対してどういう選び方をするか
とか,ほかの人と協調するときにどういう選び方するかとか,そういう
ところも結構重要視されてるんで,その辺も数理的にモデル化して,結
果を導けたら面白いなあと思っています.
個人的には強化学習も面白いと思っています.強化学習を使って,バイ
アスを持った人とどういうふうに協調するかを考えたり.逆に,バイア
スを持ってる人間の行動を学習させたり,実際の人間を対象にする時,
結構重要になってくると思っていて,その辺もやってみたいなと思って
ます.
♡ 廣中
キャリアパスについては正直,あまり考えてはいないんですけど,基本
的に論文は書いていきたいなと思っていて,つまり今後やりたいことも
今やりたいことも論文を地道に書いていきたいなと思っています.
今後やりたい研究テーマについては,最近知り合いの研究者と一緒に新
しい研究テーマに挑戦し始めたのがそっちの方向でもうまくいけばいい
なとか.最近,外部との研究プロジェクトとかに参加させてもらったり
とかしているので,幅を広げる方向性でやっていたりします.キャリア
パス的には自分の得意な方で,一番生産性が高い方向でとかってあるか
もしれないんですけど,時間が許すなら,いろいろなことをやりたいと
思っています.
♢ 枌
キャリアパスですけど,今は研究をがっつりやらせてもらっているので
,引き続き応用を意識した基礎寄りの研究ができるようなポジションに
つけるように頑張っていきたいと思っています.社内でステップアップ
できていったらいいかなと今のところ思っています.
研究テーマは視覚言語モデルCLIPみたいなやつ使ってるんですけど,こ
れが結構雑で,できてるように見えて,いや,そうじゃないよみたいな
ことをやってきたりします.なので,CLIPが持っている機能を最大限引
き出すような技術とかを作って行きたいと思ってます.気になる技術は
,検索って類似度測って並び替えるのが基本だと思うんですけど,最近
生成型検索って言って,画像列を渡して何番目ですって喋らせる検索が
出てきています.そんなんでいけるんだみたいに思ったんですけど,ま
だ精度いいわけではないので,今後どうなるんだろうなって気になって
います.
♤ 三林
強化学習は興味ありますね.昔のNLPだと強化学習ってあんまりうまくい
ってない印象があって,最近になってChatGPTとかで言語でもうまくいく
んだとか,今,強化学習のやりやすさが広がっているような気がするの
で,なんかやってみたいなというと思いますね.
♧ 赤木
そうですよね.言語系で急に使われるようになったというか.LLM関連も
あり,使われてるイメージがありますよね.
♤ 三林
僕が情報系に興味を持った理由の一つに,スマッシュブラザーズのCPUを
強化学習で強くしてみたという動画を見たのもあるので,将来的にはそ
ういうことやりたいなと思ってます.その時に深層学習ベースの強化学
習が話題になっていて,深層学習っていうのをやってみようってなった
のが結構強いので,強化学習に興味がありますね.
♧ 赤木
そうですね.かなり面白いと思います.機械学習分野でもすごい研究さ
れているし,応用先も多いですよね.
自分は人間の行動を強化学習の目線で見るというモチベーションでやり
たいって感じなんですけど,色々と役に立ちそうだなと思って,興味あ
るって感じですね.
♤ 三林
CLIPが雑というのが結構気になっていて,あれって万能なやつじゃない
んですか?オーディオ版のCLAPとかも成功してるイメージがあって,実
際CLIPって結構適当なんですか?
♢ 枌
割とうまくいく場合が多いんですけど,例えば赤い車を探したら,黒い
車と赤い椅子が写ってるのを出してくるみたいな.そういうことじゃな
いんだよなみたいなのを結構出しがちって言われてたりします.あと画
像でよく言われるのは物の位置関係とか.机の左に椅子があるとか検索
するんですけど,位置関係は全然当ててくれない,とかあったりしてダ
メです.あと否定形ですね.否定形も全然ダメでこうじゃ「ない」の持
って来いって言ったらこうで「ある」やつを持ってきたり.いろんな使
い方をしてるとだめな場合があるっていうのはよく言われてますね.
♤ 三林
異なるドメイン間において都合のいいベクトルを作るときに,真ん中の
マトリックスでうまいことをお互いの関係性みたいなのを考えてくれて
嬉しいっていうので,このテキストをオーディオに変えてみたりとか,
いろんなパターンが生まれているので,何かこれはうまいこと行ってん
だろうなという予想だったんですけど.
♢ 枌
BLIP2とかも確か2023年に出たんですけど,それを使ってると古いとか言
われる.まだ二年前じゃんとか思うんですけど.
♧ 赤木
LLMとかの分野もそうだと思うんですけど,アップデートが走ると研究の
内容とかも変わったりするので,すごい大変そうだなって思ったりはし
ています.
本質的に別物になったりすることもあるのかなと思うんですけど,その
辺ってどうなんですか?
♤ 三林
推論モデルが出てから結構変わっている気がします.いきなり結果を出
すんじゃなくて,段階的に生成しながらやるとうまく解けるみたいなの
が,最近わかってきていて.商用モデルには推論の仕組みが組み込まれ
ているけど,ローカルのモデルではどうやってその条件を揃えるのかみ
たいな時があって,評価の時に結構困ったりしますね.
♡ 廣中
LLMを使うことはあるんですが,最新モデルまでは追いつけてなかったり
します.専門の人みたいに最新のモデルとかに詳しくはないんですけど
,使うことはあります.例えば,ソーシャルメディアの分析とかではテ
キストや画像がついているのですが,便利な事前学習モデルを使ったら
,簡単にテキストがベクトルにできて類似度が計算できるようになりま
した.使うことはあるんですけど,そのくらいですね.最新には追いつ
けないけど,情報収集しながらみたいな感じです.
====
途中話題:アカデミアと企業の給料の上がり方
====
♤ 三林
企業の給料の上がり幅って結構ガツンと上がるんですか?それともじわ
じわ上がるもんなんですか?大学って給料テーブルみたいなのがあって
,あなたは2級の17号ねみたいなこと言われて,自分の給料がわかるよう
になってます.級が助教,准教授,教授とかに対応してて,ここが一個
上がると給与が大きく変わるイメージです.企業って給料がどうやって
上がるのかがあんまりイメージついてなくて.劇的になんか変わったり
するもんなんですか?
♢ 枌
うちも多分似たような感じです.一気にすごい上がるみたいなところは
恐らくなかったと思います.
♧ 赤木
うちも,役職があって,それに応じて当期の業績に応じてボーナスとか
も決まるテーブルがあるって感じです.うちも管理職になったタイミン
グで割と上がるらしいです.
でも給与テーブルも最近変わってきていて,新卒の給与も上がっている
みたいです.企業的にはだんだん上げるようになってるような感じがし
ます.
♤ 三林
確かに.アカデミアも若干その気配があって,研究職と比べると多分少
ないんですけど,アカデミア界隈の先人たちから聞いていた給料よりは
あるなという気持ちになっています.
====
後日談:今回の対談企画に参加した感想を聞かせてください.
=====
♤ 三林
2時間の対談だったのですが、あっという間に終わってしまいました。私
がまだ働いて半年と社会経験が浅かったので何か話せることがあるのが
心配でしたが、まだ新しい学生時代の記憶と照らし合わせて、学生と教
員の意識の違いなどを話せてよかったです。また、今回アカデミアと研
究所という2つの所属について先輩方のお話を聞けて非常に参考になりま
した。やはりアカデミアと研究所で文化が異なる部分があり、それぞれ
に良いところがあることがわかってよかったです。
♢ 枌
多様なバックグランドを持つ方々のお話を聞くことができて大変楽しか
ったです.事前に考えていたよりもアカデミアと企業、別企業間でも共
通するところがあり,面白かったです。このような機会をいただき,あ
りがとうございました.
♧ 赤木
同じ研究者といっても,仕事内容やキャリア,興味の対象などが多様で
あり,対談をしていて非常に楽しかったです.特に自分はアカデミアの
職員経験がないので,アカデミアの先生のお話は新鮮でした.逆に,企
業の間では共通する部分も多く,それもまた興味深かったです.学生の
皆さんからは,企業の研究所というのは謎の場所に感じられると思いま
すので,この対談を通して少しでも業務内容が伝われば嬉しいです.
♡ 廣中
最初、自分が対談なんて大丈夫なのかと思って臨んだのですが、心配し
ていたよりは楽しくいろいろな話ができました。書き起こしを見るとし
ゃべりが下手くそな部分が多く恥ずかしくなりましたが、そこはうまく
書き起こしていただいていて助かりました。
対談では、異なる環境のお話が聞けてとても勉強になりました。企業の
研究所でもアカデミアでも、お金を取ってくることや研究の意義を説明
することはやっぱり大事ですよねと思いつつ、違うところは違って、こ
の対談が皆様の何かの参考になればいいなと思います。わたしも将来の
キャリアの選択をするときに、いろいろな道があることを思い出してま
た考えたいです。
--
Takahiro Komamizu
Ph.D. in Engineering
Nagoya University
E-mail: taka-coma(a)acm.org
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