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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2022年12月号 ( Vol. 15, No. 7 )
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冬晴れが心地よい師走の候,皆様におかれましてはお変わりなくお過ごしでしょ
うか.ますますご多忙の時期に恐れ入りますが,お体にお気をつけて良き新年を
お迎えください.皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます.
さて,本号では, 9月に開催されました,推薦システム分野における世界最高峰
のトップカンファレンス「ACM RecSys」をはじめ,10月に開催されました,マル
チメディアや自然言語処理および情報検索,データベース,ナレッジマネジメン
ト分野での最重要国際会議「ACM Multimedia」,「COLING」と「ACM CIKM」につ
いてご寄稿いただきました.それぞれの会議の特徴や最近の傾向,トップカンフ
ァレンスへの投稿のメリット,論文採択に至るまでの工夫など,皆様のご参考に
なれば幸いです.
本号ならびに DBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.
日本データベース学会 広報委員会
(担当編集委員 王 元元)
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目次
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1. ACM RecSys 2022 参加報告
平田 皓平 大阪大学
2. ACM Multimedia 2022 参加報告
山肩 洋子 東京大学
3. COLING 2022 参加報告
柴田 拓海 電気通信大学
4. ACM CIKM 2022 参加報告
村山 太一 大阪大学
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■1■ ACM RecSys 2022 参加報告 平田 皓平 (大阪大学)
2022年9月18日から9月23日にかけて開催された RecSys 2022 (The 16th ACM
Conference on Recommender Systems) にオンラインで参加しました.RecSys
は推薦システム分野におけるトップカンファレンスです.
今回のRecSysは投稿された231本のうち39本が採択され,採択率は16.9%でした.
また,RecSys 2022 はアメリカ・シアトルの現地およびオンラインのハイブリ
ッドで開催され,専用のプラットフォーム上でオンライン参加者もリアルタイ
ムに発表を見ることや質問ができるように工夫がされていました.さらに,発
表を見逃した場合でも後に閲覧できるよう,発表の様子の動画をプラットフォ
ーム上から確認できるようになっていました.
RecSysは推薦システム分野の国際会議であるため,大学だけでなく推薦システ
ムを自社で持つ企業からの発表も多くもあり,大変興味深かったです.セッシ
ョンは主に推薦システムにおいて重要な要件や特徴ごとに分かれており,例え
ば「Fairness and Privacy」や「Large-Scale Recommendation」などがありま
した.
私は「Solving Diversity-Aware Maximum Inner Product Search Efficiently
and Effectively」について口頭発表しました.既存の推薦リスト検索の手法
の1つである k 最大内積探索では,ユーザの嗜好のみを考慮した推薦結果を取
得します.一方で,この方法では推薦リストにおいて重要な要素である多様性
が考慮されていません.そこで,発表した研究では,まずユーザの嗜好だけで
なく多様性も考慮した推薦リストを検索するための問題を定義しています.具
体的には,ユーザの嗜好と推薦リスト内の多様性を考慮するための目的関数を
定義し,その目的関数の値を最大化するアイテムリストを検索する問題です.
また,この問題を効率的かつ効果的に解くためのアルゴリズムを提案していま
す.
私が発表したセッションである「Diversity and Novelty」では, 現地での発
表する方が多かったですが,オンライン参加でもスムーズな段取りで発表する
ことができました.初めての国際会議での発表で緊張しましたが,とても貴重
な経験をすることができました.
最後に,RecSys 2023はシンガポールで開催される予定です.
(平田 皓平 大阪大学 大学院情報科学研究科 原研究室)
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■2■ ACM Multimedia 2022 参加報告 山肩 洋子 (東京大学)
2022年10月10日から10月14日にマルチメディアのトップカンファレンスである
ACM Multimediaがハイブリッド形式によりポルトガルのリスボンで開催された.
2020年と2021年は,開催国以外からはほぼ参加できない状態であったから,多
くの参加者にとって3年ぶりの現地参加だったと思う.日本国内では 100人中
99人がマスクを着用する状況だが,現地では逆の印象で,会議だけでなく,集
会も懇親会もほとんどの人がノーマスク.毎晩,いろいろな集まりが催され,
3年ぶりの再会や新たな出会いを喜び合いながら,リスボンのローカルワイン
である Vinho Verdeと地中海料理を味わった.少ない参加者の中で,日本人の
プレゼンスはいつになく高かったように感じた.リスボンは長い歴史を持つ美
しい街で,会場からバスで30分も移動すれば多数の観光地があり,短時間でい
くつも見て回ることができた.参加者は皆,会議の合間を縫ってサン・ジョル
ジェ城やジェローニモス修道院などの観光も大いに楽しんだと思う.
一方,残念だったのは,発表者の多数を占める中国在住の研究者らに会えなか
ったことである.すべての発表者がオンラインというセッションは珍しくなく,
特に会議の前半は通信トラブルも頻発し,質疑応答が成立しない場面もあった.
オンライン発表かローカル発表かは現地で配られた冊子で確認することができ
たため,殆どの発表者がオンラインと書かれた会場は参加者もまばらで,現地
発表が多い会場に聴衆が集まる現象が起きた.本著者を含め参加者の一部は,
2022年12月に東大で開催されるACM Multimedia Asia 2022のオーガナイザーで
もあったから,現地もリモートも盛り上がる学会運営に向けて,今一度計画を
練り直す必要を感じる状況であった.
著者らの論文は,Brave new idea (BNI) のトラックで口頭発表を行った.BNI
はマルチメディア研究に新しい展望を切り開き,マルチメディア研究のコミュ
ニティが関心を寄せる新しい長期的な取り組みに向けた活動を刺激する,革新
的な論文を募集している.今回のBNIは 40件の投稿があり,採択は 5件だった
から,採択率12.5% の狭き門であった.我々の論文では,正確な栄養計算のも
と食事を管理する必要があるユーザに向けて,食事記録を「レシピ」で記録す
る"Recipe-oriented Food Logging for Nutritional Management" の提案を行
った.査読の内容と,他の採択論文の発表を聞く限り,BNI のポイントはアイ
ディアの分かりやすさと,現在の主流のアイディアに対する問題意識であった
ように思う.手法の完成度や緻密な性能評価は求められないので,革新的なア
イディアをお持ちの方は,ぜひ挑戦してみてはと思う.
(山肩 洋子 東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
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■3■ COLING 2022 参加報告 柴田 拓海 (電気通信大学)
2022年10月12日から10月17日に韓国慶州で開催されたCOLING 2022 (The 29th
International Conference on Computational Linguistics) に参加しました.
COLINGは自然言語処理や計算言語学に関する国際会議で,2年に1度開催されて
います.今回のCOLINGは新型コロナウイルスの影響で対面とオンラインを併用
したハイブリッド形式で開催されました.Underline というオンラインプラッ
トフォームが開設され,現地発表・オンライン発表がインタラクティブに実施
されました.
今回,私と指導教員である宇都准教授の共著論文「Analytic Automated Essay
Scoring based on Deep Neural Networks integrating Multidimensional Item
Response Theory」がlong paperとして採択され,オンラインで参加しました.
COLING 2022 では2,253本の論文投稿があり,632本が採択されました.そのう
ち,83%がlong paper,17%がshort paperとして採択されました.また,3件の
招待講演に加えて,20件の Workshop,7件のチュートリアル等が多岐の分野に
渡り開催されました.私は東北大学の乾教授の招待講演「Explainability in
Automated Writing Evaluation」が特に印象に残っています.この講演は学習
者の文章(小論文や問題文に関する解答文等)に対する建設的なフィードバッ
クを目指す言語処理タスクにおける説明可能性(Explainability)の重要性,
研究課題を明確にするもので,私の研究とも深く関連する内容でした.同じ分
野を研究する者として,今後の自然言語処理の教育応用を発展させていきたい
と感じました.
私は,採択論文「Analytic Automated Essay Scoring based on Deep Neural
Networks integrating Multidimensional Item Response Theory」について発
表しました.小論文自動採点(Automated Essay Scoring:AES)手法は自然言
語処理の分野で活発に研究が行われているタスクの一つです.近年では全体得
点(総合得点)の他に複数の観点別得点も同時に予測できる手法が提案されて
いますが,得点予測の解釈性が低いという問題があります.そこで私の研究で
は,テスト理論の一つである項目反応理論を AES手法に組み込むことで,上記
の解釈性の問題に取り組みました.具体的には多次元一般化部分採点モデルと
いう項目反応モデルを用いて,複数の評価観点の特性分析や受検者の潜在的な
ライティング能力の測定を可能にしました.
私自身,初めての国際会議だったので緊張しましたが,良い経験をすることが
できました.この経験を今後の研究活動に活かしていきたいと思います.少し
残念に思ったのが,オンライン発表に関しては,セッションによっては参加者
も少なく活発な議論に乏しい印象がありました.次回のCOLINGの開催は未定で
すが,活気のある会議になることを願っています.興味のある方は参加もしく
は,論文投稿をしてみてはいかがでしょうか.
(柴田 拓海 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 宇都雅輝研究室)
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■4■ ACM CIKM 2022 参加報告 村山 太一 (大阪大学)
2022年10月17日から10月21日にかけてアメリカのアトランタで開催されたCIKM
2022(The 31st ACM International Conference on Information and Knowledge
Management) にオンラインで参加・発表を行いました.本会議はデータマイニ
ング・情報検索分野のトップ会議の1つであり基礎研究から産業への応用研究
まで幅広く発表されています.今年度のCIKMは数年ぶりの現地開催であり,オ
ンライン参加者414名とオフライン参加者610名が入り混じった場となっていま
す.特に,アメリカ・中国・韓国の3つの国からの参加が多く,日本からの参
加は20名程度に留まっています.Full paper は,投稿数1,175に対して採択数
274(採択率23.23%),Applied paper は,投稿数307に対して採択数91(採択
率29.64%),Short paper は,投稿数675に対して採択数196(採択率29.04%)
でした.投稿数や採択数に関して昨年とほとんど変わらないようです.
CIKM の査読システムにおいては,査読者の負担軽減のために2フェーズ査読と
いう面白い方式を採用していました.これは査読を 2フェーズで構成するもの
で,最初のフェーズでは,1つの論文に対して 2名の査読者が割り当てられま
す.そこで,ネガティブな判断がされなかった論文は,次のフェーズへと進み,
追加の査読者が割り当てられ,査読者同士の議論が行われることで採択かどう
かが決定するものです.私も最近知ったのですが,この方式はAAAIやICMLなど
の国際会議でも採用されているようです.
CIKM 2022 で発表・採択された論文の傾向として,他のデータマイニング国際
会議と同様に推薦システムや Knolwedge Graph や Graph Neural Networkに関
する研究が多く見られました.強化学習に関する研究も例年よりも多く見られ
るようになったのは特徴的な点だと思います.また,Tutorialや Keynoteにお
いても自己教師あり学習やPublic Health に関する内容など最近の流行を取り
入れたものとなっています.特に個人的に興味深かったのは,Jian Kang によ
る講演した Ensemble Learning Methods for Dirty Data です.実際の社会に
多く存在するDirty dataに対して有効なアプローチであるアンサンブル学習の
有効性や,未だに存在する課題について紹介しており,研究者が提案するよう
な学習モデルを実社会に適応していくための重要なアプローチだと思いました.
来年の CIKM 2023はイギリスのバーミンガムで開催されるようです.日本から
の投稿数や参加者が今年度は少なかったこともあり,来年度以降の投稿数・採
択数が増加し,国内のデータマイニングに関する研究が増えていくのが楽しみ
です.
(村山 太一 大阪大学 産業科学研究所 特任助教)
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王 元元
山口大学大学院創成科学研究科
工学系学域・知能情報工学分野
(兼担:工学部知能情報工学科)
助教 博士(環境人間学)
y.wang(a)yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang(a)gmail.com
0836-85-9522
Yuanyuan Wang, Ph.D
Assistant Professor, Department of Information Science and Engineering, College of
Engineering,
Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi University, Japan
E-mail: y.wang(a)yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang(a)gmail.com
Tel: +81-836-85-9522