┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 日本データベース学会 Newsletter ┃ 2026年11月号 (Vol. 19, No. 6) ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 本号では,若手研究者の方々の対談記事を企画しました.今回は特に,留学生として博士 号を取得し,その後日本で活躍している方々に参加いただき,多様な意見を交換する対談 になりました.研究者を志す若い学生や留学生の方のご参考になればと思います. 本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待す る内容についてご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.org までお寄せください. 日本データベース学会 電子広報編集委員会 (担当編集委員 駒水 孝裕) ================================================== ====== 対談企画について 駒水 孝裕(名古屋大学) ====== 本企画も5回目となりました.これまでの開催で,若手研究者同士の交流というだけでな く,異分野・異業種の交流機会になってきて担当としても楽しく企画させてもらっていま す.今回は少し視点を変えて,「日本に留学し,その後日本で現在活躍している方々」に 参加いただき,日本で仕事をすることについての意見も聞いてみました. 今回の対談には,以下の3名にご参加いただきました. ♤ Hieu Hanh Le(お茶の水女子大学) ♢ Savong Bou(筑波大学) ♧ Sheng Hu(大阪大学) 対談では,以下の質問を設定しました. 1. 氏名と所属と現在行っている研究を教えて下さい. 2. 現在の職場で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい. 3. 学生時代の研究と教員としての研究でギャップを感じたこととその理由を教えてく ださい. 4. 学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい. 5. 日本で教員になるまでに苦労したことと,どのように乗り越えたのかを教えてくだ さい. 6. 教員になってから苦労したことと,どのように乗り越えたのかを教えてください. 7. 今後に取り組みたいことを教えて下さい(キャリアパス,研究テーマ,気になる技 術など). 以下対談の内容になります.お楽しみください. ====== ◎氏名と所属と現在行っている研究を教えて下さい. ====== ♧ Hu Hu Shengと申します.今は大阪大学産業科学研究所で特任助教をしています.主 に医療データにAIを応用する研究を行っています.例えば,心疾患やがんなどの患者さ んから得られたデータをAIで解析して,病気の予測と診断支援につなげる研究に取り組 んでいます. ♢ Bou 筑波大学のSavong Bouと申します.私は主にリアルタイムデータとデータスト リームに関して,効果的に処理や分析をできるようする研究しています.例えばスライド ウィンドウに対して,汚いデータや送れて到着するデータがあっても,低いTime Complexityのまま処理できるアルゴリズムを研究しています. ♤ Le お茶の水女子大学文化情報工学科のHieu Hanh Le(ヒェウハン レー)です. 現在は,データ工学のアプローチを医療データに適用し,診断支援のために,治療パター ンにおける要因推定などの研究を行っています.また,このようなデータ分析以外にも, データプライバシー保護や,信頼できるデータ管理手法について研究しています. ♧ Hu Le先生に質問したくて.医療とデータベースのコアの技術の研究をしていますね.医療 の方とデータ工学の基礎研究と比べて,どちらの方が流行っていますか. ♤ Le トップ会議などを見ると,最近は主にAI関連の研究が多いですね.データベース技術に AIを適用する研究や,逆にAIをより良くするためのデータベース技術が注目されてい ると思います. AIエージェントが広く利用されるようになると,データベースに対するワークロードも 変わってきます.データ自体はデータベースに格納されていますが,RAGやAIエージェ ントはデータベースから必要なデータを抽出するため,これまでとは異なる複雑なアクセ スパターンが発生します.そうした変化に応じて,データベースをどのように設計・処理 していくかということも,重要なトピックになっていると思います. ====== ◎現在の職場で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい. ====== ♤ Le 学生の時はデータ工学の研究室に所属していて,ストレージシステムに関する研究を主に やってきたんですけど,その後は企業で研究開発グループに入り,製品化に近いような仕 事をやってきました.それで,実世界に役立つような研究をしたいと思いました.データ 工学の基盤に医療データ解析で,実データを対象にした研究をやっています. ♢ Bou 最近は,データベースを研究される先生が少ないじゃないですか.今の職場だと,同じ研 究室にいらっしゃる先生たちがデータベース系なので,自分が困ったことがあったり,相 談したいことがあれば,いつでも同じ研究室にいる先生と相談できます.自分の研究と似 てる研究をやっている先生たちの職場で働いた方がいいのかなと考えております. ♧ Hu 私はデータベース研究室の出身ですが,博士号を取った後は,北海道大学の創成研究機構 化学反応創成研究拠点(ICReDD)という研究所で,化学とAIを組み合わせた創薬 研究に取り組んでいました.だいぶ研究分野が変わりまして,物理,化学や薬学など,さ まざまな分野の研究者と一緒に研究する中で,AIを基礎科学に応用することに興味を持 つようになりました.今は医療分野にはまだ十分に活用されていないデータがたくさんあ ります.AIを使って医療データを解析し,診断や予測に役立てたいと考えています.今 の大阪大学では,医学部と阪大病院の先生方と共同研究ができるので,自分の共同研究の 経験を生かして,実際のそういう医療課題に取り組める点に,とても魅力を感じました. ♤ Le Hu先生に聞きたいんですけど,データベース研究室を出て完全に別のところで働いたん ですけども,その時になんか困ったことはありましたか. ♧ Hu 北海道大学の化学関連の研究所に移る前は,高校レベルの化学の知識しかありませんでし た.そのため,着任後はまず化学に関する本を読んで基礎から勉強しました.幸い,研究 室の先生方はとても親切で,自分の知らない分野についても親身になっていろいろ教えて くださいました.仕事を進められるようになるまでには,2年ほど知識を身につける期間 が必要で,かなり時間はかかりましたが,最終的には自分でも満足できる成果を上げるこ とができ,とても感慨深かったです. ♤ Le 別の分野に行って,その後の医療データを分析するところで,何か生かせたことはありま すか. ♧ Hu 自分が全く知らない異分野に飛び込んだ時に,やはり少し不安を感じます.まったく別の 分野なので,本当に自分にできるのだろうかといろいろ悩みました.しかし,そのような 不安を乗り越えることで,自分に勇気を与えることができました.今,大阪大学で医療 AIの研究に取り組めているのも,その経験で得た勇気のおかげだと思っています.ちょ うど研究室には医学出身の先生がいて,人工知能の研究にも興味を持っておられます.分 からないことがあれば,お互いに気軽に質問や相談ができるので,とても助かっています. ♤ Le 逆にBou先生は,違う分野に行ってからデータベースに戻ったということですけども, その辺に関してはどうでしょうか. ♢ Bou そうですね.豊田工業大学に移った当初は,自然言語処理(NLP)の知識がゼロだった ので,まずは必死に勉強するところからのスタートでした.当時は道路交通法のテキスト を読み込みながら,キーワードのアノテーションや固有表現認識に取り組んでいたのです が,データセットをすべて手作業で自作するのには本当に苦労しました. ただ,この時に泥臭くNLPを学んだ経験が,元の専門であるデータベース(DB)に戻っ た際に大きな強みになりました.現在はDBとAIの融合が非常に重要視されていますが, テキストという非構造化データを扱うNLPの知見を得たことで,DBとAIを繋ぐ架け 橋となるような研究アプローチが取れるようになりました.遠回りに見えて,自分の研究 の幅を広げるために,なくてはならない重要なステップだったと感じています. ☆ 駒水(司会) 皆さんにお聞きします.最初のポストを見つけるときにどうやって見つけましたか. ♢ Bou ポスドクの契約がまもなく終了する時にネットで検索して,ポストがあるので応募してみ たら,OK していただけたので行きました.職場以外のところに住んだことないので, チャンスかなと思って,名古屋に行きました. ♤ Le 最初の就職活動は,僕も日本人の学生さんと同じように,博士課程の時に行いました.研 究職に就きたかったので,大手企業を中心に,研究所を持っているところにいろいろ応募 しました.エントリーシートはたくさん書きましたが,最終的に選考まで進んだのは2, 3社くらいで,その中から内定をいただいた会社に決めました. その後,東工大(現:科学大)の先生からアカデミアのポストを紹介していただき,応募 して採用してもらえました.もともと大学生の頃から,将来的にはアカデミアで頑張りた いという思いがありました.ただ,その前に一度企業で働いて,実社会の問題解決を経験 してからアカデミアに戻りたいと考えていました.ちょうど良いタイミングで機会をいた だき,アカデミアに戻ることができたと思います. その後,所属していた研究室の先生が退官されたこともあり,自分も独立して研究室を持 ちたいと考えるようになりました.その時もちょうど良いタイミングで公募があり,応募 して,現在の大学に着任しました. ♧ Hu 私の場合は,京大で一年間のポスドクをして,その後は JREC-INというアカデミ アの募集情報があるウェブサイトを毎日を見て情報収集しました.応募書類を4つか5つ ぐらい応募しました.北大のポストは,異分野のポストなので,自分は本当にできるかな と結構心配していました.ちょうどその受け入れの先生が外部PIとして京都の理研にい て,京大の南部食堂で一時間ぐらい話して,仕事の詳細をいろいろ教えてくださいました. 北大の選考に無事採用され,着任を決めました.そして,北大の特任助教のポストの任期 が終わりのころに,阪大の櫻井先生の研究室ホームページで募集情報を見つけました.特 任助教のポストに関する問い合わせをしてみたら,面接の機会をいただき,採用していた だきました.阪大に来るのは,とても順調でした.多分, 1週間, 2週間ぐらいで決 めました. ====== ◎学生時代の研究と教員としての研究でギャップを感じたこととその理由を教えてくださ い. ====== ♧ Hu 一番大きなギャップは,研究の価値を自分で判断しないといけなかったことです.学生の 頃は,指導教員の先生に相談して答えをもらいました.でも,自分が教員になると,この 研究は本当にやる価値があるのか,どこまで時間をかけるべきかを自分で考えなければな りません.そのため,研究の価値と方向性を見極めることに,かなり時間をかけるように なりました.特に今取り組んでいる医療AIでは,AIとして面白いだけでは十分ではな く,医師の先生が本当に必要としている問題なのか臨床的に意味のある結果なのかといっ たことまで考える必要があるので,ここが一番大きなギャップです. ♤ Le 学生の時は,アルゴリズムやシステム,実装,実験などに取り組んで,例えば「処理がど れくらい速くなったか」といったことを中心に考えていました.教員になると,それだけ ではなく,「そもそも,なぜこの研究が必要なのか」というところまでもっと時間をかけ て考えます. また,学生の時はほとんど一人で研究を進めていましたが,今は学生もいるので,同時に 複数の研究テーマを進める必要があります.それに加えて,研究費の獲得など,考えなけ ればならないことも増えました. さらに,実データを使った研究をしたい場合には,そのデータをどうやって入手するのか も考えなければなりません.特に医療データなどを扱う場合は,研究倫理やデータのアク セス管理,研究環境の整備まで考える必要があるので,結構大変ですね. ♢ Bou 学生の頃は卒業するため,就活するために役立つ研究をしてましたが,教員になると,い い成果出さなければならないことを意識しますね. ====== ◎学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい. ====== ♢ Bou 学生の頃は基本的に自分の研究だけをすればいいんですが,先生になったら,自分の研究 だけじゃなくて,大学の業務とか科研を書かなければならないじゃないですか.なので, 成長したと思うところは,マルチタスクができるようになったことじゃないかなと考えて ます. ♧ Hu 日本語はだいぶ上達したかなと思います.私は言語勉強が結構好きなので,いろんな日本 語の教科書を読んでいます.最近は「声優になろう」という声優養成教科書みたいな本を 読んで,日本語の声の出し方と息の使い方が少しうまくなりました.研究については,チー ムで取り組むことの大切さが分かってきました.やはり一人でできることには限界があり ます.例えば,医療分野の共同研究では,自分では分からないことがあれば,医師の先生 方に質問しながら研究を進めています.技術だけでなく,チームワークも大切にするよう になったことが,自分にとって大きな成長だと思います. ♤ Le 成長したところとしては,物事をより広く見られるようになったことだと思います.学生 の時は自分の研究だけでよかったんですけど,同時にいくつの研究テーマを進めています. 研究のマネージメントとして,自分が学生に進捗を求めたり,一人で進めるだけでは大変 なので,チームワークを発揮できる環境を作ったりすることについて,少しずつ感覚を掴 んだかなと思っています. ☆ 駒水(司会) Hu先生はベンチャー企業でのお仕事と半々だと思いますが,そちらの仕事はどうですか. ♧ Hu 企業運営では利益を出さないといけないのです.ソフトウェアを開発して,メンテナンス もして,お客様の需要や実装の仕方とハードウェアとか全部詳しく研究して,最後は実装 までやらないといけないのです.仕事は細かいですが,楽しいですね.研究だけにとどま らず,最後のプロダクトまで自分の手で実装できるというのはとても楽しいと思います. Huの場合は,学生時代に半年間の企業インターンシップを経験し,企業の研究開発(R &D)現場で求められるスキルを身につけました.Le先生も日立にいる時のそういう経 験をありましたか. ♤ Le そうですね.企業の研究所では製品化までの各フェーズによって研究テーマの進め方が変 わります.例えば直近で必要となる製品やサービスへ組み込むことが決まっている技術で あれば,短い時間で集中的に研究開発を進めます.一方で,数年先を見据えたテーマでは, プロトタイプを作って,技術的に実現可能か,どの程度の効果があるかを検証しながら, 将来の製品化につながる可能性を深まっていきます. ♧ Hu 直接現場でお客さんと需要のヒアリングを行いますか. ♤ Le そうですね.僕は研究所にいたので,研究所にとってのお客さんは事業部になります.事 業部の方と話し合いながら,「この機能が必要だ」と「性能はこのくらいまであげる必要 がある」といった要求を確認して研究開発を進めていました. 製品を実際に使うお客さんとは事業部の方が直接やり取りをしていて,そこで得られた要 求や課題が研究所のメンバーにも共有されます.研究所ではその内容を踏まえて,必要な 技術や機能を検討していく,という流れだったと思います. ====== ◎日本で教員になるまでに苦労したことと,どのように乗り越えたのかを教えてください. ====== ♧ Hu 正直に言うと,私にはそれほど苦労したという感覚はなくて,楽しい思い出の方が多いで す.ただ,博士課程の頃は,将来どんな仕事ができるのかという不安がありました.その 不安を和らいだきっかけは,博士課程二年目に参加した企業インターンシップ(NEC中 央研究所)でした.半年間の長期インターンで,企業研究所の働き方と雰囲気を知ること ができて,プログラミングの開発力もかなり鍛えられました.インターンが終わった頃に は,将来の不安もかなり小さくなっていました. ♤ Le 苦労したこととして,日本語と組織ですね.自分が 組織の中の一人ですので,仕事を進 めるには組織全体のことをある程度理解しないといけません.最初から全てを把握するの は難しかったんですけど,積極的に同僚と会話しながら,少しずつ理解していきました. 企業には親切な方も多かったので,わからないことは聞けば教えてもらえましたし,そこ から自分でも調べて,ある程度理解できるようになりました. 一方で,将来的にアカデミアへ戻ることを考えましたので,やっぱり研究業績について意 識しました.企業は長くいると,あまり論文を書く機会が少なくなりやすいので,可能な 範囲で研究成果を残すようにしていました.また,教員になると研究費の獲得も重要にな ります.採択されれば一番いいんですけれども,まず申請しないと始まりませんし,申請 実績がないのもあまりよくないので,基本的には毎年申請するようにしていました.. ♢ Bou 僕は基本的に壁が多いですね.まずは日本語ですね.日本に来る前は日本語全くわからな かったので,ゼロから日本語勉強しました.もともとコミュニケーションがあまり得意じゃ ないのもあって,フォーマル的なな説明とか,あんまりうまくできないですね.また,博 士取ってから教員には,業績が必要がじゃないですか.博士取ってからポスドクになって 業績を作らないといけないですね.ポスドクを四年間をやって,メジャーなところにパブ リケーションが出せるようになったら,教員のポストを応募する自信が付きました.ちょっ と壁が多いですけど,乗り越える越えたためには,慣れかなと思います. ♧ Hu Bou先生に質問です.学生の頃には自分が教員になりたいという動機がでてきましたか. ♢ Bou 僕が大学二年生の時に英語の塾で働いていたんですよ.教えるのが好きで,もともと教員 者になりたいんと思っていました.自分の性格には,会社より大学の方が合ってると思い ました. ♧ Hu 私は東アジアの文化の影響だと思って,中国には教員という職業が尊敬される風土があり ます.少なくとも学生時代の私は,たくさん知識を身につけて,それを他の人に教えられ るような人になりたいという気持ちを持っていました.また,博士課程の指導教員からも 「アカデミアに進んでほしい」と何度も勧められ,その影響もあって,最終的にアカデミ アの道を選びました. ☆ 駒水(司会) 皆さんにお聞きします.自分の国や他の国の大学ではなくて,なぜ日本の大学にしたんで すか. ♤ Le ベトナムから日本は比較的に近いですし,文化的にもそんなに大きなギャップはないと感 じていたので,生活しやすいと思いました.実際に日本で暮らしているうちに,日本での 生活が好きになって,そのまま日本で就職することになりました. ♢ Bou 僕のお隣さんの娘さんが,中学生ぐらいに日本の奨学金をもらって,日本に留学されたん ですよね.彼女のお母さんから話を聞いてて,自分も日本に興味を持ちました.その時か ら一生懸命勉強して,日本の奨学金を取れるため頑張りました.二つ目の理由は,カンボ ジアでは日本はかなり評価が高くて,日本で留学できるのは僕の夢です.日本の大学に残っ た理由は,日本が好きだからです. ♧ Hu 私の場合,指導教員と学生時代の大事な友達が日本にいるので,身近な距離で連絡したい という考えもありました.別な理由としては,例えば,上海か深センに戻ると,そういう 人口の大都市には通勤時間が要ります.日本の通勤しやすさがとても気に入ってて,こう いう現実的な考えもありました.結局,人生の流れに乗るのが一番重要だと思いますので, なんとなく日本に住み続けていました. ====== ◎教員になってから苦労したことと,どのように乗り越えたのかを教えてください. ====== ♢ Bou 自分は学生や他の教員のコミュニケーションですね.学生にモチベーションを与えるため に,コミュニケーションが必要だったり,大学の業務のために他の先生とやりとりの必要 があります.日本の大学で講義したことがなかったので.助教になって講義をするのでそ れが壁かなと思います.どう乗り越えたのかについては,日本語の講義については,やっ ぱり練習するのみですね. ♧ Hu 教員になってから一番苦労したのは,自分のキャリアをどう作っていくかというところで す.私には AIの基礎研究と応用研究という二択がありました.論文の出しやすさを考 えると,基礎研究に集中した方がキャリアを作りやすいと思っていました.でも,北海道 大学で異分野の共同研究を経験してから,AIを使って科学の現場にある問題を解決する ことに強く惹かれるようになりました.これは自分の興味本位でやっていました.転機に なったのは,大阪大学の今の上司に相談したときでした.将来についても真剣に一緒に考 えてくれて,今は基礎研究を大切にしながら,実際の医療課題にも応用するという自分な りのキャリアを作っていきたいと考えています. ♤ Le 教員になると,研究教育以外の業務が増えます.例えば,研究室の運営や大学の様々な手 続きなどですね.基本的には自分で全部対応しなければならないことが多いため,どうやっ て効率よく進められるかを考えるようになりました.このあたりは,できるだけ自動化す るようにしています.研究室内の手続きについても,予めテンプレートを準備して,学生 さんに必要な書類を準備してもらうようにしています.そうすると毎回1から説明したり 確認したりする必要が減って,全体としてスムーズに進められます. ====== ◎今後に取り組みたいことを教えて下さい(キャリアパス,研究テーマ,気になる技術な ど). ====== ♤ Le チャンスがあれば,将来的にはサバティカルのような形で別の国でも研究してみたいと考 えています. ♧ Hu 私は今後もAIの基礎研究と応用研究の両方に取り組みたいと考えています.医療AIを 中心に研究して,時期列データと画像,生体信号,テキストなどを組み合わせたマルチモー ダル AIにも興味があります.あと,今のAIモデルは重いので,モデルの軽量化にも 興味があります.そして, LLMなどの新しい技術を単に使うだけでなく,医療研究で 本当に役立つ形にしていきたいです. ♢ Bou 自分の研究はかなり伝統的な研究だと思っています.今のままだとAIにはついていけな いので,なるべくAIも活用しないといけないかなと思ってます.今のやり方だと,他の 分野のの専門家とあまり関わらないので,研究問題設定をするときに,実際の専門家の意 見とか話しながら,もっと幅広く研究したいなと思っております. ♧ Hu 学生時代はモチベーションが高く,研究のためであれば,どれだけ引っ越しをしても気に ならないと思っていました.最近は長距離の引っ越しはできるだけ避け,生活拠点を一つ の場所に置きたいと思うようになりました.そう考えると,大学発ベンチャー企業での仕 事が一番自分に合っていると思います.今は大学とベンチャー企業を半々でやっています が,ベンチャー企業ではさまざまなノウハウを学べることも挑戦しがいがあって面白いの で,今後はベンチャー企業をメインにする働き方でもよいと思っています. ==== ◎後日談:今回の対談企画に参加した感想を聞かせてください. ===== ♤ Le このような貴重な対談の機会を企画していただき,心より感謝申し上げます.今回,日本 で私と似たような経験や苦労を重ねてこられた先生方とお話しすることができ,大変あり がたく感じました.先生方のお話には共感する部分も多く,それぞれ異なる環境の中でど のように課題を乗り越えてこられたのかを伺えたことが,とても印象に残っています. 私自身、日本に来てから20年以上が経ちました.今回の企画を通じて改めて振り返って みると,企業では親身に接してくださった同僚に恵まれ,大学でも多くの先生方や同僚に 支えていただいていることを強く実感しました.日々の中では当たり前のように感じてい たことも、振り返ってみると決して当たり前ではなく,多くのご縁や支えがあったからこ そ今があるのだと思います. 今回の対談は,他の先生方の経験を知るだけでなく,自分がこれまで受けてきた支えの大 きさに改めて気づく機会にもなりました.これまで関わってくださった皆さまに,改めて 心より感謝申し上げます. ♢ Bou 今回の対談企画に参加し,他の先生方のこれまでのキャリアの歩みやご苦労,仕事に対す る情熱,そして素晴らしい将来のビジョンを伺うことができ,大変刺激を受けました.多 くの学びを得ると同時に,自分自身のこれからのキャリアや人生設計をより良く見つめ直 す貴重な機会となりました.今後も機会があれば,ぜひ積極的に他の方々と意見を交わし, 交流を深めていきたいと考えております. ♧ Hu 振り返ってみると,これまでのキャリアは,異分野への挑戦や新しい環境への挑戦の連続 だったと感じています.不安を感じることもありましたが,その一歩一歩が自分の成長に つながったと思っています.私は来日して13年目になりますが,名古屋大,NEC中央 研でのインターン,京大,北大,そして現在の阪大と,多くの素晴らしい環境に恵まれ, 本当にたくさんの上司や同僚の先生方に支えていただきました.この場をお借りして,心 より感謝申し上げます.今回のお話が,これから日本で学び,研究や仕事に挑戦したいと 考えている方々にとって,少しでも参考や励みになれば大変嬉しく思います.このような 貴重な機会をいただき,誠にありがとうございました.