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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2025年2月号 ( Vol. 17, No. 8 )
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本号では、国際会議VLDB 2024、ICDM 2024、ICADL 2024の参加報告をご寄稿
いただいております。会議の動向やご自身の研究内容などのご紹介となります。

本号並びに DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容に
ついてご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください。

                      DBSJ Newsletter 編集委員会
                        (担当編集委員 伊藤 寛祥)

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目次
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1.VLDB 2024 参加報告
 加藤 郁之  株式会社 Preferred Networks

2.ICDM 2024 参加報告
 小峠 陸登  大阪大学

3.ICADL 2024 参加報告
 中村 礼音  筑波大学

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■1■ VLDB 2024 参加報告
                 加藤 郁之(株式会社 Preferred Networks)

2024年8月26日から30日までの5日間に中国の広州で開催されたデータベースに
関する国際会議 50th International Conference on Very Large Databases 
(VLDB 2024) に現地参加しました。VLDBはSIGMODとICDEと並ぶデータベース
分野の三大国際会議として知られています。VLDBでは例年、1日目と5日目がワーク
ショップが中心で、2日目から4日目が本会議の発表セッションとなります。本会議
では、最大7並列で51ものセッションが開催され、データベースを中心にデータ
サイエンス、セキュリティなど様々な研究が発表されていました。3日目の夜には
バンケットに加えて広州のド派手な夜景を楽しめるナイトクルーズがあり、参加者
と交流を深めることができました。

VLDB2024では、1437本の研究論文が投稿され280本が採択されました。また
Industry paperは37/88、デモは64/166の論文が採択されました。国別では、中国が
最も多く512本の論文が投稿されて90本以上が採択、日本からは16本の論文が投稿
されて2本が採択という結果でした。また、投稿された研究トピックの上位5つは
多い順に、1. Machine Learning, AI and Database, 2. Database Engines, 3. Graph 
and Network data, 4. Data mining and analytics, 5. Data Privacy and Security で
した。最近のVLDBでは機械学習関連の研究が明らかに増加していると思いますが、
データベースのコア技術の発表も変わらず盛り上がりを見せていました。個人的に
目立っていたと感じるのは産業界からの研究発表で、特にLLMをデータベースエン
ジンに様々な形で取り込む研究を大手のベンダーがこぞって発表していた印象でした。
LLM自体の進化が早いので次の数年も、潤沢な計算資源をもつ産業界から特に増加
するのではないかと思います。

今回のVLDBでは、我々の研究グループ(Emory大学のLi先生、東工大の曹先生、
大阪成蹊大の吉川先生、LYの高木さん)からは2本の研究論文が採択されました。
どちらの研究も、機械学習の際の訓練データに対する数学的で厳密なプライバシ
保証を提供するための研究です。 1本は私の主著「ULDP-FL: Federated Learning 
with Across Silo User-Level Differential Privacy」という論文です。Differential Privacy
を保護した機械学習モデルをcross silo Federated Learningによって学習する際に、
サイロを跨いでUser-level Differential Privacyを保証するアルゴリズムを提案しまし
た。これにより、従来のDifferential Privacyのもつレコードに対するプライバシ保証
を拡張して、ユーザに対するプライバシ保証が可能になりました。もう1本は高木
さんが主著の、「HRNet: Differentially Private Hierarchical and Multi-Resolution 
Network for Human Mobility Data Synthesization」です。こちらは理論的なプライ
バシ保証を提供する合成データを生成する位置情報のための生成モデルの研究です。
この研究では、既存の深層生成モデルに位置情報に適した3つの工夫を加えることで
プライバシと有用性のトレードオフを従来の手法から改善しました。
今回のVLDBでもプライバシやセキュリティに関するセッションは数多く開催され
ており、コミュニティとしても注目度は上がっていると思います。とはいえ、LLM
応用などのセッションと比べると聴衆は少なかった印象です。

来年開催予定のVLDB 2025は9月1日から9月5 日にロンドン開催で、例年通り投稿は
毎月受け付けています。VLDBはジャーナル方式で査読の質が高いと言われています。
裏を返せば、完成度の高い論文はかなり高い確率で採択されるのではないかと思い
ます。最近のVLDBでは幅広いトピックを扱っているので、ぜひ投稿を検討してみては
いかがでしょうか。

著者紹介:

加藤 郁之(株式会社Preferred Networks エンジニア)

2024年3月 京都大学博士後期課程 修了。データ工学におけるプライバシ保護の
研究に従事。2024年4月より 株式会社 Preferred Networks に入社。博士(情報学)

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■2■ ICDM 2024 参加報告
         小峠 陸登(大阪大学 産業科学研究所 櫻井・松原研究室)

2024年12月9日から12日までアラブ首長国連邦のアブダビで開催された
IEEE ICDM 2024 (International Conference on Data Mining)に現地参加しました。
ICDMはデータマイニング分野の難関国際会議の1つです。
ICDM2024では、メインカンファレンスに投稿すると、regular paper または 
short paperが選択されて採択されました。
採択率は19.5%(118/604, regular: 66, short: 52)で、全ての発表は口頭発表で行われ、
ポスターセッションはありませんでした。

私たちの研究室からは、「SplitSEE: A Splittable Self-supervised 
Framework for Single-channel EEG Representation Learning」というタイトルで、
私が筆頭著者の研究論文がshort paper として採択されました。
大阪大学医学附属病院の先生方との共同研究であり、脳波データからてんかん発作
の事前予測や睡眠段階の予測ができる手法を提案しました。時間領域と周波数領域
で自己教師あり学習を行いクラスタリングすることで、少ないチャンネル数の脳波
データからでも高い精度の予測を達成しています。
私はボランティアとしても活動し、会議運営の一部補助も行いました。また、会議
のバンケットとセレモニーは砂漠で行われ、参加者全員でバスで移動するという珍
しい形式でした。TOYOTA社のランドクルーザーに乗り砂漠を疾走したり、夜の美
しい砂漠の景色、ダンスイベントなどを楽しんだりできました。日本からの参加者
の方々とも交流し、現地の美味しい料理を堪能しながら研究や就職活動についてお
話しできた良い機会でした。アブダビはモスクなどの歴史的な建築と豊かな文化に
彩られた美しい街であり、治安や衛生面も不安を感じることも特にありませんでし
た。今年は12月開催でNeurIPSと日程が重なっていましたが、来年は11月に開催
予定とのことです。興味のある方は論文投稿および参加の検討をされてはいかがで
しょうか。

著者紹介:

小峠 陸登(大阪大学 産業科学研究所 櫻井・松原研究室)

2022年大阪大学基礎工学部情報科学科卒業。2024年大阪大学大学院情報科学研究
科博士課程前期修了。大阪大学大学院情報科学研究科博士課程後期在学中。時系列
グラフデータマイニングの研究に従事。

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■3■ ICADL 2024 参加報告
                          中村 礼音(筑波大学)

2024年12月4日から6日にマレーシアのモナシュ大学で開催された
Asia-Pacific Digital Libraries(以下、ICADL 2024)に参加し、論文発表を行い
ましたので、ご報告申し上げます。

ICADLは、JCDLやTPDLと並ぶデジタルライブラリ分野の主要な国際会議であり、
デジタルライブラリ、コンピュータサイエンス、図書館情報学のコミュニティを
結ぶ重要な場です。ICADL 2024は対面形式で開催されましたが、オンライン
発表やセッション参加も可能で、多様な研究者が参加しやすい環境が整ってい
ました。フルペーパー採択者の発表時間は15分間で、5分間の質疑応答が行われる
形式でした。会議期間中は午前と午後にコーヒーブレイクがあり、ランチもあり、
参加者同士でディスカッションや交流を深めることができました。ランチでは、
マレーシア料理が提供され、現地の食事も堪能することができました。

今回の会議では、自然言語処理、計量書誌学、情報推薦、HCIなど幅広い分野の
研究発表を聴講する機会がありました。特に、社会的な実用性の高い研究が数多
く採択されている印象を受けました。

私が発表した論文「MATopic: Metadata-Assisted Topic Modeling for 
Patent Analysis」は、筑波大学の伊藤寛祥先生、森嶋厚行先生との共著論文
です。本論文では、特許文書とそのメタデータを活用した新しいトピックモデリ
ング手法を提案しました。この手法により、特許文書の特性を反映したトピック
生成が可能となり、特許ナレッジグラフを用いたトピックの視覚表現やトレンド
分析を実現しました。詳細については、本論文をご参照ください。

英語論文の執筆や国際会議での発表は今回が初めての経験でしたが、先生方の
ご指導のおかげで無事に終えることができました。準備の過程で多くの時間を割
きましたが、それが大きな成長につながり、英語で論文を書くこと、また発表す
ることへの自信を得る貴重な機会となりました。また、ICADLを通じて多くの研究
者と交流し、研究に関する知見を深めることができただけでなく、さらなる学び
への意欲も高まりました。次回のICADL 2025はフィリピンで開催予定であると
伺いました。機会がありましたら、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

著者紹介:

中村 礼音(筑波大学)

2023年に筑波大学情報学群知識情報・図書館学類を卒業後、2023 年4月より筑波
大学大学院情報学学位プログラムに所属。自然言語処理やナレッジグラフ、メタデ
ータなどの技術を用いた研究に従事。日本データベース学会に学生会員として所属。
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